あれも、これも、かなう。西武鉄道
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西武鉄道

西武鉄道社員がかなえたい

あれもこれもストーリー

Vol.12 「踏切事故をゼロにしたい
いのちを守るAI検知システム」

約3年間にわたる実地での精度検証を行い、新たに開発した「踏切滞留AI監視システム」。踏切事故を防ぐために開発した技術で、踏切のカメラ映像からAIが踏切内の異常を検知すると、特殊信号発光機を動作させ運転士へ危険を知らせるというもの。2021年冬から池袋第9号踏切〔池袋線〕と所沢第3号踏切〔池袋線〕で試験稼働しています。

今回お話を伺ったのは、鉄道本部 電気部信号通信課の金田幸治さん。
実用化に至れば、鉄道事業者の願いである「踏切事故を無くすこと」に繋がり、業界としても大きな一歩となる今回のプロジェクト。担当者はどのような思いでこのプロジェクトを進めてきたのでしょうか?最新技術を駆使した、安全装置開発の裏側に迫ります。

※特殊信号発光機:列車に停止信号を出し、踏切の異常を知らせる装置

西武鉄道では踏切のさらなる安全性向上を目的に、 踏切内の「人」を主な検知対象としたカメラ画像の解析による踏切内の異常検知システムを、複数のメーカーと共同で開発してきました。

約3年間にわたる精度検証の結果、安定した検知能力が確認できたため、2021年12月から順次、3箇所の人道踏切※1でAIや3D画像解析により踏切内の異常を検知し、当該踏切に接近する電車へ停止信号を現示する試験を開始しました。

※1 人道踏切:主に人や自転車が通行する小規模な踏切(自動車は通行不可)



01

保守業務をしながら

地域の子どもたちと交流

―金田さんの現在の業務内容を教えてください。

金田「信号通信課に所属し、信号機や踏切の保守管理といった通常業務の傍ら、踏切内に『人が取り残されていないか』を検知する『踏切滞留AI監視システム』の開発を担当しています。現在、池袋第9号踏切〔池袋線〕と所沢第3号踏切〔池袋線〕に設置し試験をしている段階で、実用化を目指しています」

―これまでに、どんなお仕事をしてきましたか?

金田「入社してすぐは、上石神井電気所で信号や踏切などの保守業務をしていました。沿線を歩いて作業を進めていくのですが、地域に住んでいるこどもたちと毎日のように、すれ違っていたので、電車に親しみを持ってもらえるよう『スマイルカード』という電車のカードを渡すのはどうかと所長に提案してみたんです。それまでは、保守業務の社員がスマイルカードを配ることはあまりなかったのですが、若手の意見を所長が取り入れてくれ、実現することができたことがとても嬉しかったです」

―その後はどのようなお仕事を経験されたのでしょうか。

金田「5年ほど保守業務を行い、その後、踏切や信号機の設計・施工を担当していました。鉄道の信号機は、どこに配置するかで運転の効率が変わってきます。カーブやこう配などを計算しながら、電車が安全に効率よく運行できるように考えて設計していました」

02

踏切事故を無くしたい!

鉄道事業者の願いを形に

―検知システムのプロジェクトには、どの段階で携わり始めたのですか?

金田「踏切に設置している監視カメラに、AI技術が対応できるかの検証が進み、どのように実用化に結び付けるか、という検討を開始した段階でプロジェクトに入りました。今までやっていた保全や設計とはまったく異なる業務だったのですが、吸収することが楽しく、率先して取り組みました」

―もともと踏切にカメラは付いていたんですね。

金田「そうなんです。そのカメラのメーカーがAI技術を開発していたため、鉄道事業に何か活かせないだろうかということになったんです」

―AIの技術を、どのように鉄道事業に応用していったのでしょうか。

金田「やはり『踏切事故を無くしたい』というのは、みんなの願いです。足腰が弱いご高齢の方などが踏切内で転倒してしまったり、ベビーカーの車輪が挟まってしまったり、そういった事故を減らしたいという強い思いがありました。そこで、踏切内に留まっている『人』を自動的に検知して、接近する電車に危険を知らせるような仕組みを検討していったんです」

夜間でも鮮明に撮影できる低照度カメラ

接近する電車に異常を知らせる特殊信号発光機

03

人かどうかは骨格で判断

電車が止まるまでのプロセス

―検知システムは具体的に、どのような仕組みなのでしょうか。

金田「簡単にいうと、まずはカメラが踏切を写します。そしてAIの技術が、人が踏切内に滞留しているかを判断します。踏切の遮断完了後に人が踏切内に滞留していると、AIから特殊信号発光機に合図が送られ、運転士が電車を止める、という流れです」

―電車が自動で停止するというわけではないんですね。

金田「運転士が信号を見て、その都度止めています。ですが危険がないにも関わらず、過剰に電車を止めてしまうということを避けるよう、これまでの3年間で実験・改良を重ねてきました」

―どのように人を認識しているのですか?

金田「AIに学習させた『骨格』や『関節同士の繋がり』で人を認識しています。骨格検知というのは、映像の中の関節点を抽出し、関節同士の繋がりを推定することで人の骨格を検知できる仕組み。『関節同士の繋がりの強さ』も学習対象とすることで、高い精度で人を検出することができるようになるんです。また、骨格検知だけでなく自動車などの物体を検知する『物体検知』のアルゴリズムと組み合わせながら、高精度かつ迅速に検知しています」

04

踏切の異常を

適正に検知するために

―開発するうえで苦労されたことはありますか?

金田「踏切の異常を、取りこぼしなく、過剰でもなく、適正に検知できるように調整するのが大変でした。『踏切が鳴動してから閉まっている間だけ』人を検知するのですが、鉄道の安全と、安定輸送のバランスがとれる最適なチューニングを、今も探っているところです」

―他業界の方と認識を合わせながら動くのは難しそうですね。

金田「カメラ、画像解析、鉄道という、あまりにも専門分野の違う3社での協業でした。打ち合わせでは、私たちが求めるクオリティのあまりの高さに『そこまでやらなきゃいけないんですか?』と言われたのが印象的でしたね(笑)」

―求めるクオリティというのは、具体的にどのようなものだったのでしょうか。

金田「本当に必要なときだけ機能させて、電車を止める、というのがゴールでした。簡単に聞こえますが、それが難しかったんです。安全・安心がモットーの鉄道事業者としては、30点40点のものでは『使える』とはいえないので、絶対に妥協できませんでした。ですが、3社とも『安全・安心』『お客さまが喜んでくれる』『感動してくれる設備をつくる』というゴールは一緒だったので、認識をすり合わせながらチーム一丸となって取り組みました」

―特に工夫された点があれば教えてください。

金田「こだわったのは、昼でも夜でもクリアに写る『低照度カメラ』を使っていることです。線路内では、さまざまなところから光が入ってきます。また、昼と夜でも影の出方が変わります。電車や車などの車体が反射することもありますし、検証中には影を人と認識してしまうことも多くて、とても苦労しました。検証結果を受けてメーカーから提案してもらい、現在の『低照度カメラ』を採用することに。また、西武鉄道では雪が降るエリアもあるため、雨や雪にも耐えられるようひさしを取り付けています。丸いカメラなので、雪が積もっても流れ落ちてくれるんですよ」

05

読めない人の動き

無意識だからこその危険性

―実際に試験してみていかがでしたか?

金田「踏切内での人の動きは読めない、とビックリしました。踏切が鳴っていても平然と渡り始めてしまう方もいれば、自転車で前に進んだと思ったら後ろに戻る方もいたり。それが日常的で慣れていて、無意識だからこそ怖いなと思いました」

―それはかなり危険ですね。

金田「たとえば、踏切内に数秒間滞在すると検知システムが反応するのですが、遮断完了間際に横断される方にとっては、『600メートル先に電車がやっと見える』という距離感なので、『自分が事故にあう危険を冒している』という意識がないのかもしれません」

―一度電車が止まってしまうと、復旧するのが大変そうですが・・・。

金田「異常がないことが確認できれば、復旧できるのですが、異常が見つかった場合は、安全が確保されるまで、時間がかかることもあります」

―システムを開発する上で、他部署との調整はどう進めていったのでしょうか?

金田「例えば開発側からすると、システムが反応する場合には『このタイミングでこの場所にいたら危ないから、止めて当たり前』と考えますが、運転士側からすると、今まで止まらなかったところを止めなくてはいけないため、違和感がありますよね。交通量の多い池袋でも試験していたので、越えなければならないハードルがさまざまあるのは承知の上でした」

―実際の反応はいかがでしたか?

金田「社内には、『本当にうまく動くの?』『そこまでするの?』という意見も確かにありました。でも望まずに不幸な事故で命を落とす方が、1人でも減らせる可能性があるのならば、どうにかしたい、というのが私たちの想いで。打ち合わせや調整にはかなり時間がかかりましたが、最後は命を救えるものだからということで、きちんと納得して協力してもらいました」

06

費用とサイズを抑え

設置しやすいシステムに

―鉄道業界全体としては、事故対策はどのような状況なのでしょうか?

金田「一般的には、『踏切の支障報知装置(押しボタン)の設置』『支障検知装置による自動車の検知』『視認性が良い全方向型閃光灯の設置』など、さまざまな対策をしています。特に、支障検知装置は高機能化して、自動車だけでなく人も検知できる可能性が高くなってきています。しかし、事故対策には多様な方法がありますので、各社さまざまな技術を駆使して、さらなる事故防止に取り組んでいます。」

―踏切の支障検知装置(押しボタン)はどのように開発されたのですか?

金田「支障検知装置は、鉄道側の安全を守る設備として開発された経緯があります。そのため必要な保安度のレベルが高く、重厚な設備になってしまうので、数ある踏切を高機能化するには、どうしても時間がかかってしまいます。あとは踏切事故を無くすために、連立事業として、線路を地下に潜らせたり、高架にしたり、そもそも踏切を無くそうとする取り組みもあります」

―確かに、踏切がなくなれば事故も減りそうです。

金田「西武鉄道は他社と比べて踏切の数も比較的多いため、全ての踏切に対策を講じるには時間がかかってしまいます。そこで、容易に設置ができ、コストを抑えることで複数の踏切に安全対策を導入できる防犯カメラをベースにした仕組みを考えていきました」

07

他業界の専門家と交わり

得たものは人脈

開発に携わったチームメンバー
左側から 萩倉主任 齊藤課長補佐 犬塚課長 近江課長補佐 金田主任

―今回の経験で得たものや、感じたことがあれば教えてください。

金田「一番は人脈ですね。普段関わらない部署や機械メーカー、技術の専門家など、このプロジェクトをやっていなかったら出会うことができなかったと思います。さまざまな意見交換や、技術を学べたことがとてもありがたかったです。また、私の力だけでなく、さまざまなスキルを持った社内のチームメンバーと取り組んだからこそ、成し遂げられたと感じています」

08

踏切とこれからも

仲良くしてもらいたい

―今後かなえたい目標や夢はありますか?

金田「挑戦は、これからもずっとしていきたいです。部署が異動したり、新規事業の担当になったりしても、ストレスを感じることなく何事もポジティブに考える性格なんだと思います。新しいことに挑戦するときは、新鮮な気持ちで、とても楽しく感じるので、未経験のことにも、果敢に挑戦し続けていきたいです」

―西武鉄道を利用されるお客さまにメッセージをお願いします。

金田「私は電車を運転しているわけでもなく、駅係員としてホームに立ってお客さまの安全を守っているわけでもない。私の仕事は、安全・安心を設備面からサポートすることです。お客さまに快適に西武鉄道を利用していただくために、今後も安全・安心を守る設備の提供を目指していきます。また、踏切によって地域の方と共存しているのですが、負担をかけている部分でもあります。そんな中でも、安心して西武線沿線に住んでいただけるように、良い形で踏切と共存していけるように、より良い環境をつくっていきたいと思っています」

堀 昇平

Vol.12 Profile

金田 幸治(カネタ コウジ)

西武鉄道株式会社
鉄道本部 電気部信号通信課 主任
2005年 入社

※所属等は、取材当時のものです。

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