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江古田商店街、わたしの行きつけ
「フクミ青果編」

日々の買い物は、時に孤独な作業です。
何にしようかと、ひとり頭の中で考え、無言でカゴに入れて行く。レジで一言「袋要りません」と言って、会計を済ませ家路に着く。無駄はないけど、ちょっと味気ない。

「これは美味しいですよ」
「細く切って茹でて食べるのが一番いい」
「はいおまけ」

ほどよい距離感のささやかなやりとり。家族でも、仕事場でもなく、でも知っている人がいるところ。それはお店でも、呑み屋でもどこでもいい。
江古田の商店街でお買い物をする人が、それぞれのお気に入りの居場所を見つけてもらえるといいなと思い、今回はフクミ青果 今福秀信さんにお話を聞いて来ました。

フクミ青果 今福 秀信さん

江古田駅北側から新桜台に向かって伸びる商店街ゆうゆうロードにある、看板のない青果店フクミ青果。オレンジとエンジのストライプの庇が目印の小さな店内には、たくさんの種類の野菜・果物が並べられています。訪れるお客さんは、今福さんに野菜や果物のことを聞いたり、近況報告をしたりと会話が絶えないお店です。

自然な流れで江古田

― お店を始めてどの位ですか?
今福さん:もう長いよね。40年くらい。ここの場所は5年くらいかな。
― 40年!長い。なんで江古田でお店を始めたんですか?
今福さん:なんでっていうこともないけど、まあ、自然な流れだよ。
― 毎日仕入れに行くんですか?
今福さん:そう、毎日。4時起き。で、5時くらいに出るの。
― 4時!早い!!
今福さん:もう慣れてるからねー。
― 帽子被って競りですか?
今福さん:そうそうそう。でも昔はね、時間時間で競りがあったんだけど、今はもう、市場っていう形式的な競りぐらいしかないね。今はもう、ほとんどが前注文。競りでやると、やっぱり時間もかかるし、お互いの妥協した値段が出てこないから。今は情報化時代だから、市場間の相場のやり取りが瞬時だからね。

スマホなどを使って、いつでもどこでも色々な情報を得られるのが当たり前の今、競りのあり様が変わっていくのは必然…と頭では分かっていることも、地元のお店でこういった話を聞くと時代の変化を改めて実感します。

店先に所狭しと並べられた野菜と果物。黒のバスケットと手書きのPOPでまとめられていて見やすい。「おすすめ」「おいしい」のコメント入りはハズレなし。

子供達はあっという間に育っていく

街の子供たちにも人気の今福さん。学校帰りの小学生が話しに寄ったり、塾に向かう子が「行ってきます」と挨拶して通り過ぎたり、お母さんと一緒に来た子がビニール袋を用意するお手伝いをしたり、小さな常連さんもいるお店です。

― 子連れのお母さん達がよく来てますよね。特に男の子が多い気がします。

今福さん:どこの子供もかわいいけど、女の子はどうしても扱いに気を使うからね。男の子は単純だからね、かわいいよ~。

<ふたりの子供を乗せた自転車でお店の前を通り過ぎながら、女の人がおじさんに挨拶していく>

今福さん:あのお母さんも、ふたりともいなかったんだから。僕が知った頃。いつのまにかお母さんになっちゃって。初めて会った時に3歳くらいの子が、今もう40近いもんね。ずーっと前に八百屋さんに勤めてて、15時頃に配達に行くわけ。そうすると、その子は配達の道順を知ってて、そこでちゃんと待ってるの。で、その子を車に乗せてね。その子がもう40になる。あっという間だよ。

お店に来る子は、保育園のお迎えの親に連れられてきた小さい子たちがほとんどです。ゆうゆうロードは通学路でもあるので、毎日たくさんの子供達がお店の前を通り過ぎていきます。でも、小学校に上がる頃になると皆それぞれに自分の世界が始まり、だんだんとお店に寄ることも減っていくそうです。さみしいけれど、成長していくってそういう事なんでしょうね。

「美味しい」の連鎖反応

旬の野菜や果物はお店でいちばん目立つ場所に置かれています。今年の秋、店先に吊るされた干し柿はひときわ目立っていました。

― 店先にあると惹かれます。これを見て、やってみようかなと思いました。
今福さん:去年、一昨年からやる人がずいぶん増えたね。僕が手順を教えてあげて。だってあなたもそうだもん。
― 去年作ったらとっても美味しかったから今年も作ります、というご夫婦の話を聞いたら、自分でも作りたくなりました。
今福さん:自分で作る干し柿は、虎屋の羊羹みたいな美味しさよ。1回やればね、毎年作りたくなるの。みんなに喜ばれるから。手間がかかってるから、プレゼントすると喜ばれるよ。

店先でお話を伺っている間も、道ゆく人(やや年配の方)がかなりの確率で「干し柿」と口にしていて、干し柿がこんなに人を惹きつけるのかと驚かされました。今福さんが、干し柿のレクチャーを誰かにする度に別のお客さんが気になって注文してしまう…というのも小さなお店ならではの連鎖反応です。

干し柿の作り方の実演中。食べたことがない野菜は、聞けばおすすめの食べ方を教えてくれます。お客さん同士で、あれが美味しかった、なんていう会話が弾むことも。

たかが買い物。されど買い物。

フクミ青果さんでお買い物をしていて気付くのは、おしゃべりしながら買い物できる良さ です。「こんにちは~」「ああ、いらっしゃい」「今日は何にしようかな」のやり取りから始まる今日の買い物。そこには払った金額プラスアルファの何かがあるように思うのです。

フクミ青果

練馬区栄町26-2
営業時間:10:00~19:00
定休日:日曜日

記事を書いた人

石垣三月

プロフィール

デザイン会社勤務。気になる建築を目当てに、江古田で暮らし始めて10年。