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江古田観測日誌 Vol.1「江古田はファンシー」

はじめに

江古田は知名度が高い。それゆえにイメージに手あかがついてしまって、新しい文脈を見つけるのがむつかしい。また、町に馴染んでしまえば、おのずと感度が鈍くなる…そこで江古田に引越したばかりの私が、江古田に感じる違和感を実際に訪ねて、尋ねてみようという企画である。若者の町・学生街でありながら何だか「駆け出せないもどかしさ」があるなぁと思ったが、そのもどかしさは、まだこの町になじめない自分自身のことでもあって…。

きっかけは、一枚の看板

駅前の『LIFE SHOP オシダ」店頭

そもそもこの企画の立ち上がるずっと前に江古田でフィールドワークをした。そこでどんなものより私を惹き付けたのが江古田駅から徒歩3分『LIFE SHOPオシダ』の一見地味な案内板だ。家具と家庭用品にはさまれ同等扱いされる「ファンシー」のカテゴリーに最初の違和感…。ファンシーって何?気になって仕方ない。

ファンシーとは女性好みの「カワイイ」、80年代を象徴するキーワードの一つだ。海外にはない日本独自で昭和な感覚でもある。店が舞台(セット)以上に舞台!?ある種の「濃さ」が時間と共に消化されて図らずも生み出す「こなれ感」・愛すべき「まぬけ感」。トレンド無視のマイペースなオリジナリティ。今どきな「こなれ感・抜け感」のクールさに反してもっと「ぶきっちょ」で「おっちょこちょい」な感じ。…というのは80年代当時、我が家にあった手芸本から影響を受けまくった主観である。

そして、フトぐるりを見渡せば、そこかしこにファンシーがバリバリ現役じゃぁないですか、江古田!隣駅の「東長崎」周辺が戦前、若い芸術家達の集う「池袋モンパルナス」(パリ!)と呼ばれたことと対照的で面白い。それが江古田!そこで、江古田で採集した「ファンシー」のカケラを紹介したい。

左は1982年刊、『大高輝美のマスコット大百科』、右は80年代にシリーズ化された『ぶきっちょさん』シリーズの1989年刊(いずれも雄鶏社)より。目がバッテン(ドジ)!&ぶきっちょさん!の競演。なんとなく女の子同士が似ているのが奇跡。私の中のファンシーの原点。

1.小竹図書館と馬場のぼる『11ぴきのねこ』

江古田最寄図書館の貸出NO.1は地元、馬場のぼるさん著の『11ぴきのねこ』。馬場さん寄贈図書コーナーがある。見て!このねこの表情。なんてファンシー。
ちなみに江古田北口の雑貨『オイルライフ』に11ぴきのねこのグッズ取り扱いあり。

2.まほうつかいのでし(1981年OPEN)

近くの学校の先生と学生さんが出てきて「先生、1000円!」と言って払おうとしていた。きっと常連さん。

木製のテニスラケットとトレーナー(とあえて言いたい)が似合いそう。オリジナルスパゲッティは「幻想の月」(納豆パスタに海苔で隠れた月見卵)「ムキムキマン」(ミートソースにフランクソーセージ)「白くまくん」(白くまの好きなサケを使用したホワイトソース)などメニュー名がファンシー。掛け時計は永遠に反対向きのまま時を刻む。2階席の窓際はコテージ風。初めてのデートがこんなところであったなら…。

3.Mell(1983年OPEN)

はしっこが焼けた「PIZZAのテイクアウト」。それも含めてチャーミング

学校の部室、学園祭の模擬店のような雰囲気の座席レイアウト。ロゴの色がかわいいオリジナルのお皿がファンシー。売り物にしたらいいのに…。マスター&学生さん風のアルバイト(実際、近隣の大学生もバイトしている)の組み合わせが、ハマる店内。ご近所さんと思しきジャンパー姿のおじさんがカウンターのハイスツールで一人ランチ。

4.マザーグース(1916年OPEN)

バックヤードと売り場がノーボーダー。看板がファンシー。系列サロンスペースが「フェアリーテイルズ」というのも絶妙なセンス。
魚屋の品書きみたいに生きのよい『焼きたて』(POP)がパンと並んでて、そういうところが好き。

5.ゆうゆうロードキャラクターゆう太くん、ゆう子ちゃん

ちっともゆるくない。ナウイ。

6.どれみふぁ緑地(1995年)、そらしど緑地(2003年)

名称の由来を練馬区道路公園課に問い合わせてみた。
「武蔵野音大にちなんだ名前ですか?」(私)
「推測の通りです」(道路公園課)

江古田駅から小竹方面に、順に『どれみふぁ緑地』、その先数百メートル離れて『そらしど緑地』。『そらしど緑地』は、武蔵野音大とその寮である『むらさき寮』の間にある。音大に配慮?ファンシータウン。

7.ガラクタやネバーランド(2013年OPEN)

店内にファンシーグッズが満載。デッドストックの「ファンシープレート」発見。流行ってた。自分の部屋にファンシーでない本気の「立入禁止」を貼り付けて後戻りできなくなった苦い思い出がよみがえる。

8.バトー(2016年OPEN)

昭和感を今的に解釈したネーミング・ビジュアルのお菓子屋さん。16時の開店にはいつも長蛇の列。お菓子横に「ファンシーチャリティ」グッズ発見。

まとめ

新旧入り乱れながらも貫かれた「ファンシー」がお見事。何より80年代にオープンした店の現役感がすごい(上記他、ト音記号のオムライスがおなじみの「砂時計」も1982年OPEN)。

お店の雰囲気が80年代のあだち充の漫画『タッチ』な感じだなと思っていたら、洋服ブランド『ROPE PICNIC』の今年のポスターの中にヒロイン・南ちゃんを偶然に発見。

次は江古田の時代…に違いない。

なお、これらの店に「カフェラテ」はない。あるのは「カフェオレ」(かコーヒー)だけだ。スターバックス以前には「カフェラテ」は存在しないのだな、としみじみ思った。
そして重大な気づき、それは「SINCE」。80年代の店は開店年を入れるのがお約束。ホラね!(↓再掲)。そういえば、その頃、大学生はサークルの揃いのトレーナーに「since1980」なんて入れてたような。

1881年は日本でパスタが食べられるようになった年。それから100年後の1981年OPENですが…

…というわけで始まった『江古田観測日誌』。かつて武蔵大学内に「アメダス観測所」が設置されていたという史実(大げさ)に基づき、ちなんだ特集名にしてみました(通称は「エコダス」で!)。さらに江古田を観測してまいります。

次回は「ファンシーな1冊」を江古田のアノ人に尋ねてこようと思います。


おまけ…銀座で見つけた2019年冬の南ちゃん。

記事を書いた人

奥 光子

プロフィール

今年の夏に都内某所より江古田へ転居。プロフィール画像は、2019年7月5日撮影のゆうゆうロード。「浮き輪が吊るされてて大胆」と友達に報告。ディスプレイ用にアレンジなんかしてない本物!ぷかぷか。