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江古田観測日誌 Vol.2古書店『根元書房日芸前店』さんが選ぶファンシーな一冊

「江古田はファンシーである」と定義してみた第1回に続き更なるファンシーを求めて…。
実店舗としては江古田唯一の古書店『根元書房日芸前店』店主橋本さんにファンシーな一冊をたずねてきた。

『根元(こんげん)書房』は沖縄返還の1970年頃に開店。当時は沖縄に関する本が充実しており、根元書房の名前で沖縄に関する詩集なども出版していたという歴史を持つ古書店である。現在の日芸前店店主橋本さんは、江古田歴20年。当時橋本さんは30代半ばで、隣町の中野区江原町に住んでいた。きっかけは、本店(現在、事務所兼倉庫)の店先に植物の種が干されていたのを見て「なんですか?」と世間話をして種をちょっともらったところから。「なんか、のんびりしていいな」と感じてアルバイトを始める。そして「今となっては本当なのかな?って思うんだけど(今の社長が)『江古田を古本の町にしたい』って言ってたんです。…じゃあちょっと『俺も一生懸命やろうかな』という気になったのはありますよね…」それから日芸前店を任されて今日も「古本屋のお兄さん」といった風情で店番中。さて、根元書房日芸前店橋本さんの選ぶファンシーな一冊とは?

お題その1「ファンシーな一冊」

何やらファンシーなものが並ぶ店頭…

ファンシーについていろいろ話したところ、橋本さんは「ファンシーは大好きですよ」と言っていた。しかしお互いの定義は「ぜんぜん違うでしょうね」と、なり…。

― 江古田はファンシーっていうことについて、どう思いますか?

店主 橋本さん(以下は):それは微妙ですね…。

― 橋本さんはファンシーをどうとらえてますか?

は:…それはもう説明できない…ネットで調べたんですよ。そしたら「わけのわからない…なんかその人が興味をもつもの…」みたいのが書いてあって、ああ、そうだなと思って。ただ、かわいいものだけっていう感じでもないし。

根元書房のHPのTOP画像にもなっている商品「壁掛け:空飛ぶ風船と少年」。「ファンシー」の商品カテゴリーに括られている。橋本さんの考える「ファンシー」の一つ。

は:もうファンシーって言ったらいろいろありすぎるから、一番最近扱かったなかで、これはいいなと思うものがあったので、キープしておきました。本じゃないんですよ。「見本帳」っていうか、私の中では本の括りなんですけど。普通に本だと、なんていうか既視感というか、見た感じがある…よく目にするっていう感じのものになっちゃうから…。

『スリーリング★ワッペン』(スリリングじゃなかった)というワンタッチOKの見本帳。

は:多分これは、柄からして…7、80年代くらいでしょうね。それがいいなあと思ったんですよね。これを実際、無印良品とかユニクロとかで無地のポロシャツかなんか買ってきて付けたら、かわいいなっていう…。

当日、私が黄色の無地のセーターを着ていたので、こういうのに付けたら…ワンポイントでカワイイかも!という話にもなったところで、二冊目の紹介。実は、ファンシーな一冊だと選書がむつかしい場合は「江古田的一冊で」とお願いしていたのだ。

2.お題その2「江古田的一冊」

は:ファンシーとは別に「江古田的な一冊」もあるんですよ…それは、大して珍しいものでもなんでもなくて…逆に言うと普通のものなんです。これ『昭和二万日の全記録 昭和から平成へ』。第19巻で最後です。たまたま見たときに「ちょっと見おぼえあるな…」っていう…

厚みのある図鑑のような本の見開きにある写真。この写真について本の中では一切触れられていない。

― あ!これ江古田ですよね?

は:しかも、これ誰が写しているかっていうと、森山大道(注)なんですよ…!奥付に昭和63年。撮影:森山大道って書いてある。いま現在あるお店っていうのは多分、この蕎麦屋さんぐらいじゃないかと思うんですよね…。偶然見つけたんですけど、蕎麦屋さんにこれ持って行って、もし持ってなかったらどうですか?って営業に行こうかなってぐらいで…(笑)

― ある意味、昭和から平成…時代を象徴している写真なんでしょうね?

は:ちょうどこのころ江古田とか来てぶらぶらしてたなって思うと懐かしい感じで。もしかしたら、森山さんとニアミスだったかもしれない…と。

〔注〕1938年大阪府生まれ。グラフィックデザイナーを経て、写真家岩宮武二、細江英公に師事し、1964年に独立。日本写真批評家協会新人賞、第 44 回毎日芸術賞などを受賞。1998年ニューヨーク・メトロポリタン美術館、2003年パリのカルティエ現代美術館での個展など、世界的評価も高い。今なお写真家を志す者に大きな影響力を与える一人。

同じような構図で撮ってみた現在の江古田駅北口付近。「澤之鶴」の看板が目印。話にも出ていた蕎麦屋『栄屋』さんは現在も営業中。

まとめ

結局「江古田はファンシー」認定は橋本さんにいただけませんでした。しかし、私から見ると店頭はファンシーグッズも結構ありますし、実際最近「そういうの定期的に買いにくる人がいるんですよ、本当に。だから結構並べますけど」という橋本さんの証言もあり、ファンシーの波は、やはり江古田にジワジワきている模様です…。

一方インタビュー中は、江古田の歴史の話になりました。次回は江古田の昭和から平成にかけての変遷をまとめてみます。

根元書房日芸前店

練馬区 小竹町1-54-5 江古田STマンション102

記事を書いた人

奥 光子

プロフィール

江古田歴7か月。『根元書房日芸前店』で私が選んだファンシーな1冊。『パリ洋菓子店ガイド』地図付。中に載っているケーキもべらぼうにファンシー。たしか50年位前のもの。