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江古田観測日誌 Vol.3超硬派?!地図で考える江古田文化学~昭和・平成・令和~

前回は「江古田はファンシーである」と定義し、江古田唯一?の古書店『根元書房日芸前店』店主橋本さんに「ファンシーな一冊」を選書してもらいました。橋本さんの言葉をきっかけにしながら、雑誌に掲載された昔の地図を交えて江古田の昭和から平成をおってみたいと思います。

江古田は本の町?

橋本さんは、2002年から日芸前店の店主をしている。

【証言1】
江古田は私が知ってるときには6軒位古本屋があったんで…。ここ(根元書房日芸前店)はもともと違う古本屋さんだったんです。以前は太宰治の最後の弟子って言われてた人がやっていた『青柳書店』でした。評論家の呉智英さんが「見識のある古本屋」って褒めてた本屋さん。

【検証】
1979年発行『Angle』(主婦と生活社)

貸本屋(!!)2軒含めて13軒の本屋があった。この後、話に出てくる『プアハウス』(喫茶店・現在閉店)の名前もある。ちなみに喫茶店は50軒ほど掲載されている。50軒って!!

江古田はレコード(CD)の町?

1990年あたりから江古田に通い始めていた橋本さん。

【証言2】
(店内にたくさんあるレコードについて)
初めて音楽に触れたのがCDではなくレコードの世代なので、やっぱりレコードの方に行っちゃいますね…。江古田が一番おもしろい、興味があった時代はもう過ぎちゃったんですよ。私が、店を始める前、平成入ってから90年代の中あたり…こういう仕事をする前が一番魅力を感じてたというか…レコード屋さんも…『ZERO』さん(『DISC SHOP ZERO』2002年下北沢移転))や『おと虫』さん(閉店)、『ココナッツディスク』さん(現在も営業中)なんかのレコード屋さんもあって…。

【検証】
1992年発行『宝島』(宝島社)

中古レコード・CD屋『おと虫』(閉店。現在ネット通販のみ)ほか、『ビデオイン江古田』『レンタルビデオリメンバー』(いずれも閉店)など、記事では徒歩1分圏内に「レンタルビデオ・CD6軒」と紹介されている。まだビデオで、CDもレンタルする時代。

江古田は学生街。学生街といえば喫茶店?

江古田と言えば、学生街。これに橋本さんは違和感があるようです。

【証言3】
私が個人的に一番嫌いなキャッチフレーズは、大学が三つもある「学生街」っていうので…。なんだろうな…確かに事実ではあるけど、学生があんまりここらへんでウロウロしている感じがないんですよね。むかし『プアハウス』って喫茶店あったんです(注:2018年10月閉店の伝説の喫茶店。シャッターに描かれたイラストと店名を見ることは今も可能)。店主の方も知っていてなかなか本当に良かったんですけど…そういうブラブラ…っていうか当てもなく…っていう感じが今あんまりないっていうのか…。

【検証】
1999年発行『Hanako』(マガジンハウス)

見出しは「3つの大学を抱える、東京きっての学生街」。「ブラブラ町歩き」ではなく『この町に住みたい』連載の1ページ。96年OPENのビリヤード場『ARENA』や『Bar Aquavit』、80年OPENの『TRES BON』 をカフェとして紹介。いずれの店も現在も営業中。

2010年以降の学生街とは?

ところで、現在「学生街」としてどんな町が紹介されているのか、国会図書館の雑誌記事索引で調べてみたところ高田馬場が多かった。今でも古本街として有名。その記事に、昔は学生と切り離せない古本街だったが90年代にはすでに学生は来なくなっていたという内容があった。先ほどの92年・99年の江古田記事にも古本の記述は皆無。更に12年後、2011年の江古田を見る。

【検証】
2011年発行『週刊金曜日』(週間金曜日)画文は、矢吹申彦氏

右上に注目、やはり「キャンバス街だからかコーヒー、ケーキの店多し」とある。学生街=喫茶店のイメージは根強いようだが、本は出てこない。

江古田の文化的土壌について

【証言4】
東京はもちろんどこもそうなんですけど、江古田は、やっぱり結構文化的な方が住んでらっしゃって…。

なぜ本と喫茶店が多かったのか?文化と本と喫茶店…大学と共に町の風景を作る住宅史をまとめた。

【検証】

江古田周辺と大学年表

1928年(昭和3年)練馬区初、国登録有形文化財『青柳家住宅』江古田に竣工
昭和モダンな洋風建築。翌年の武蔵野音楽学校創立に伴い、多くの教職員が周辺 に移り住んだ
1929年(昭和4年)武蔵野音楽学校(現 武蔵野音楽大学)創立
この頃、児童文学作家『ちいさいモモちゃん』シリーズなどで知られる松谷みよ子氏が江古田に在住
1934年(昭和9年)同潤会江古田分譲住宅30戸竣工
都市部の近代的なアパートメントで知られる同潤会の東京初「庭付きマイホーム」として分譲。『佐々木家住宅』が現存(2010年国登録有形文化財に認定)。
1939年(昭和14年)日本大学芸術学科(現芸術学部)が江古田に移転
1949年(昭和24年)武蔵大学創立

(参考)「旧同潤会江古田分譲住宅におけるコミュニティ形成に関する調査および関連の昭和期史料のデジタル化」成果報告2017年3月 発行者:旧同潤会江古田分譲住宅佐々木邸保存会

【小まとめ】
古本屋と喫茶店が多いことを雰囲気で?!納得。

青柳住宅主屋(羽沢1-6-12.内部非公開)

佐々木家住宅(小竹町1-36-4、内部原則非公開)
※青柳住宅主屋および佐々木家住宅をご見学の際は、敷地内に立ち入らないようにして下さい。また、路上からの見学で住民の方や近隣住民にご迷惑をかけないようご配慮ください。

2020年の江古田雑感。学生街?何の町?

【証言5】
「タピオカ屋だって、あれよあれよという間に江古田に4、5軒できて…どうせ秋になったら飽きるだろうと思ったら意外とみんな飽きてないし…」「パン屋多いですね」

【検証】
〇タピオカ屋6軒。『茶咖匠』、『TOKI SEVEN TEA』、『藍鵲 ~Lan Che~』、『台湾黒糖タピオカ専門店A’LITTLE』、『Z-ONE TEA』、『桃々喜』。

〇2011年行以降オープンしたパン・お菓子・コーヒー屋11軒
ベーカリーカフェ&ギャラリー『Vieill (ヴィエイユ)』(2013)、『Be Pan』(2013)、『まるみベーグル』(2018)、パン屋『ファミーユ代官山』、(2019)、お菓子『バトー』(2016)、コーヒー&フード『ハロー・オールド・タイマー』(2014)、コーヒーショップ『アポロンズゴールド』(2017)、『Comes from good coffee』(2017)、『ぐすたふ珈琲』(2017)、『HUT』(2018)など。ほぼすべてテイクアウトOKなのが、興味深い。テイクアウト専門と言えば、北口江古田銀座商店街角『ペドラム』(2019)のケバブスタンドも忘れてはいけない。

まとめ

お話を聞きながら実際に調べてみての感想。いやぁ~良い時間の旅路でした(しみじみ)!「ああああ!そこに行って、見てみたかった」というところも多かったのは事実。町も店も経験ですからね。いつまでもあると思うなです。店主さんの世代交代で止むなく閉店という店も多いようでした。しかし、だからこそ新しい店もできています。そして「この今・2020年」引越してきたばかりの私と江古田、そして目の前にありありとある、本ありすぎる『根元書房日芸前店』と店主橋本さん。

勝手な想像ですが「外から見たことはあるが入ったことはない」住民や「目的の本を探しに一度入っただけで、それ以来行っていない」大学生がいるのではないかと思います。だって、入りづらいから!どう入りづらいのか…「日芸前店」を見たことも聞いたことも行ったこともない方にも分かりやすく…次回は「『根元書房日芸前店』入門~心構えから入店まで~」をお届けします。

記事を書いた人

奥 光子

プロフィール

今年の夏に都内某所より江古田へ転居。聞いた中で一番行ってみたかったのが『プアハウス』。残念すぎる。