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江古田観測日誌 Vol.4『根元書房日芸前店』入門~心構えから入店まで~

「江古田の難関、三大学と根元書房」

左:江古田駅自動改札、右:根元書房日芸前店唯一の通路。…オシイ!この勝負、西武鉄道の勝ち!

とにかく(物理的に)入るのが難しいお店、それが『根元書房日芸前店』です。江古田で難関とは、3大学(日本大学芸術学部、武蔵大学、武蔵野音楽大学)だけではなかったのです。これまで2回にわたり、『根元書房日芸前店』店主橋本さんの話を紹介してきました。

インタビュー中、そこここに散らばる自虐発言。そこだけ橋本さんのインタビュー音声でお届けしたいくらい面白くって…橋本さん、不謹慎でごめんなさい!それではいくつか抜粋してみましょう。

「いまどき、ここまで汚い店ないんですよ…はっきり言って本当に」

「ただ、ここまでちょっと探せない店はないので」

「(橋本さんが店主になった)平成14年には倉庫状態になってたんで、この(店内唯一の導線)真ん中さえも空いてなかった」

「こういう店は、なかなか本を探せないし」

「お客さんも怖くて入れないし、そう言われるのは1、2回じゃないんで」

しかし、橋本さんは決して開き直っているわけではないのです。そのことについて「大変申し訳なく思っています」とおっしゃっていました。私が面白く感じてしまったのは、お店のカオスっぷりと本の探しづらさ、それに対する橋本さんのお詫びの気持ちのギャップでしょうか。もしかしたらその見づらさゆえ紹介されづらいお店かもしれない…それならば、私と同じビギナー向けに『根元書房日芸前店』入門を書こうと思いました。

まずは全体の見取図で心構え

① 古道具屋さんからもらって、そのまま使っている看板。 ② 店外の棚、今のメイン売り場。全長4m。 ③ 唯一の通路。 ④ 最近のBGMはAFN ⑤ 橋本さんはカニ歩きで通るけど「お客さんにはすすめられない」非通路。 ⑥ 橋本さんの定位置 ⑦ かつてこの場所にあった古書『青柳書店』では住居だった部分。今は本のストック場。感覚的には店内95%位を本が占めているような状態。しかしどこもそれほど埃っぽくはありません。店頭の棚は毎朝、橋本さんが並び変えているので、本の風通し良い感じです。

⑤最小幅17cm!せまっ。

次に、入りづらさを予測し解消

その一:通路が一本しかなくて不安(しかも狭い)

左:平常時、右:取材中に事件!左の山が崩れて床に!橋本さん曰く「日常茶飯事。この姿も是非」…鷹揚な方です。その後の復旧もすばやい。

「結構ここね、奥行深いんです。…前は一応、こっちもこっちも通れたんですけど。もう本当にそこ(の通路)もつぶれて、こっち側(の通路)もつぶれちゃって…」という訳で、以前は3本あった通路も(上図参照)今は1本です。通路というよりむしろ「スキマ」というのがふさわしいような…。2人が通るのは厳しい一方通行なので、入る人、出る人が譲り合う場面もあります。それにひるまないこと。

その二:店主の姿が見えずいつも不安

左:店頭の練馬区配布の安否確認ボード。本の海の中、橋本さん無事です&営業中。この手書きのかわいい案内板も古書の買取中に見つけたもの。
右:「どんな人が店主か分からないとお客さんは不安だと思うので」とお願いしてみた

通路の奥にいつも橋本さんがいます。ただし、入口中央から伸びる55cmの通路…改め「スキマ」から橋本さんの姿が見えることはなく、そのため「一体どんな人が出てくるのだろう?」「店内に入っていいのだろうか?」という一瞬のためらいと不安が襲うでしょう(事実、私もそうでした)。それにひるまないこと。腰の低い店主さんです。

その三:どんな店なのか不安

取材中「紙モノ」(包装紙・チラシ等)を探しに常連さんが来店。奥から出てきた紙アイテム。左は池袋近郊らしく東武・西武・キンカ堂の包装紙。右は北欧のスティグ・リンドベリデザインで人気の西武の袋。価格はすべて300円ほど。デザインストックとしていかが?

店頭をのぞいて中に入っても誰もいないし、ずっと見てるの不安だし、そそくさと扉を閉めて出ていく…ことも考えらます。「この店は何だろう?」というモヤモヤが残ると再度の入店がむずかしいかもしれません。一見さん大歓迎のお店ながら店の構造上(?)、聞いたら奥から店主(と本!)が出てくる「リクエスト型」本屋なのです。そうと分かれば少し安心?実際、取材中も、90年代の建築雑誌を探す元日芸大生、古い児童書を探す老夫婦、古い植物の本を探す武蔵高校生など沢山のリクエストを受けていました。「(欲しい本を)聞いてもらえると出せるんだけど、大抵の人は入ってそのまま出ていく感じ」「(大学生は)先生に読めと言われて、それだけ探しに来る感じなので、目的のものがないとスルーしちゃう…。それはそれでさみしいんですよ…」と橋本さんも言っていました。さあ、まずは入店してみましょう!
…とは言え、そもそも古本屋って何かを探しに行くより当てもなくぶらぶらするのにピッタリの場所です。ただぶらぶらしてはいけないの?というあなたは「飲食店と違って、(本は)入ってきた人の一割買ってくれればいいほうで、入ったら必ず買えっていう訳ではないので。それだったら入場料とりますから…」という橋本さんのお話をもう少しうかがってみましょう。ひやかし入店にも寛容なお店です。

ろくでなしもOKなお店?!

「本当あの…ろくでなしがもっと多かったらいいのかな?と思うんですけどね。日中からぶらぶらしているような…。昔は(江古田も)結構学生がぶらぶらしていたわけで…」という橋本さんはぶらぶら推奨派。
「とにかくハタチくらいから、古本屋行くのと、中古レコード屋行くのと、古道具屋行くのが娯楽といいますか…それで本買ったら、どっか喫茶店入って買った本を眺めるっていう定番…それがもうずうっと続いた感じですね。その延長線上で結果的に(古本屋)になったって感じです。あとね…そうそう、なんていうのかまあ、その頃から割と一人でいるのが苦にならないというのはありますね。一人の時間というのは、必要だと思いますね…」ボイスレコーダーもメモ帳もない場面の世間話で、確か橋本さんは古本屋が「天職」と言っていました。

まとめ

「あんまり変な期待をもたれてガッカリされるのが一番いやだから」という希望もあり、お店の見たままを読み物にしました。橋本さんは、お店の今の状況を気にしつつ大事な商品がぞんざいに扱われれば「意志を持って睨みます」し、「探している物があるんだったら、一生懸命探します」。

江古田に対して「複雑な思いですよね…何か愛憎にも似た思いですよ」という発言を取り上げようか迷いました。最後になって一筋縄でいかないお店もそうかもしれないな…と思って、うまくまとめないでおこうと思いました。

本、以外にも古い雑貨(ファンシーも!)や「紙モノ」が、出来立てコーヒー・パン・タピオカと同じ価格帯で並ぶのは、面白いなと思います。「残された古いもの」と「新しくて食べたらすぐ消えてしまうもの」…。江古田歩きに『根元書房日芸前店』店頭をひやかしてはいかがでしょうか。

橋本さんの今の一押しは、印刷(タグなど)の本でした。昔から「紙」に興味があるそうです。

根元書房日芸前店

練馬区 小竹町1-54-5 江古田STマンション102

本の他に、パンフ、チラシ・包装紙・絵葉書・切手・レコード・古道具・雑貨などを扱っています。

記事を書いた人

奥 光子

プロフィール

江古田歴7ヶ月。根元書房日芸前店の7軒隣の焼肉『金剛園』…オヤ!?『KONGOEN』…「O」を取ったら「KONGEN」!根元!!…まだ誰にも言えてない。