西武鉄道社員がかなえたい

あれもこれもストーリー

Vol.5 「西武線アプリ開発担当者の先進的な視点」

他の鉄道会社のアプリに比べると後発ながら、充実の内容でお客さまからも高い評価をいただいている西武線アプリ。鉄道の運行情報の精度も高く、またイベント案内やおトクなクーポンページなど、遊び心満載のつくりも話題になっています。ダウンロード数も当初の目標を大幅に上回り、現在は22万DLを達成しました。※2019年8月現在


そんなヒットアプリを中心となって開発したのは、入社29年のベテラン、永田任弘さん。「移動に必要なときにだけ起動して情報を得る」という交通系アプリの常識を覆すような、画期的なアプリ開発の裏にはどんなストーリーがあったのでしょうか?

「手のひらステーションで快適な毎日。」

西武線をより便利で快適に。お客さまが西武鉄道をご利用いただく際、スマートフォンを通じていつでもどこでもタイムリーにサポートする便利なアプリ。
よくご利用になる駅の情報に簡単に素早くアクセスできる、まさに「手のひらステーション」です。


▼「西武線アプリ」の概要

  • 公開日:2018年3月26日
  • 主な機能:
    ①列車のリアルタイムな走行位置情報
    ②電光掲示板とおなじ列車案内
    ③運行情報のプッシュ通知
    ④おトクなクーポン配信
    ⑤参加型イベントの開催
    ⑥多言語対応(英語・中国語・韓国語)
    など
  • 他にはない西武線アプリだけの機能
    ①列車位置情報を車両アイコンで表示
    実走する車両形式によるアイコン表示、また、走行中のラッピング車両の位置を
    検索可能
    ②電車ナビゲーション機能「のるタップ」
    乗車中の電車の現在地や駅までの所要時間を表示し、降車駅のひとつ前の駅を出たらプッシュ通知でお知らせ
    ③駅からバス情報
    駅前または徒歩5分圏内のすべてのバス事業者の停留所情報を掲載
  • ダウンロード数:222,564 ダウンロード ※2019年8月10日時点
01

長年の経験や学びが

アプリ制作に活きる

―永田さんの現在の業務内容を教えてください。

永田「私は計画管理部 管理課に所属しています。所属している課では、沿線人口を増やすための長期的施策、特急ラビュー・レッドアロー、座席指定列車S-TRAIN・拝島ライナーのPR施策、そして西武線アプリの企画運営を主なミッションとしています。私の業務は、西武線アプリに関するものが4割、新しいシステムに関するものが4割、沿線の価値向上に向けた新しい施策検討などが2割、といったところでしょうか。西武線アプリにつきましては、6月に電車ナビゲーション『のるタップ』という追加機能をリリースし、システム的には安定期に移行した状態です。2年目に入り、運用のコツもだいぶつかめてきましたね」

―これまでにどんなお仕事をされてきたのですか?

永田「入社後15年ほどは、電気部の信号通信を担当する現業部門に在籍していました。具体的には、列車運行を制御する運行管理システムや信号機、踏切に関する業務を担当し、実際に線路を歩いて点検をしたり、夜間工事に立ち会ったり……。担当路線の安全は自分が担っているという気概を持って従事していましたね。その後、情報システム部に異動し、PASMO運用にあたっての社内のインフラ整備などを手掛け、その時代に現場のことから本社、さらにはグループ会社のネットワークや重要なシステムのことまで、広く深く勉強することができました。そして現在の計画管理部では3年目になります」

鉄道アプリ初の電車ナビゲーションサービス『のるタップ』

『のるタップ』をアプリ オリジナルキャラクター
「ラッコロ」がわかりやすくご案内

02

望んでいた

アプリ開発の道へ

―西武線アプリを手掛けるに至った経緯を教えてください。

永田「実は技術的な興味があり、システム部門に在籍していたころより、アプリを公開している鉄道会社から、差し支えない範囲でセキュリティへの考え方などのノウハウを教えていただいていたんです。ただ流行りに乗るのではなく、本当に作る価値があるものかというのも自分の目で見極めたかったですしね。なので、当社でアプリをつくるためのシステム構成のイメージは、そのときすでに自分のなかではできあがっておりました。自分がアプリ開発に携わりたいという気持ちはあったものの、もし自分が担当になることが無理でも、主体となる部署が決まれば支援だけでもするつもりだったのですが、2017年3月に情報システム部から計画管理部に異動することに。その直後に、当時の上司に相談のうえ、すぐに社内調整と手続きに入りました。『早くアプリを』というお客さまの声もいただいており、お待たせしている状態だったので、3ヵ月で開発着手にこぎつけました」

―アプリを開発される前提で異動されたということですよね?

永田「そうですね。自分でも実現するとは思っていなかったのですが、でも『この会社で鉄道アプリを作れるのは自分しかいない』という自負はありました。鉄道アプリの最大の特徴は、列車の位置がリアルタイムでわかること、その点に尽きます。私は信号通信の現場での経験から、列車の位置を検出し、情報として上がってくるまでの流れを完全に理解していましたし、また情報システム部においてはITの知識とセキュリティの重要性を学んでおりましたので、信号通信×ITのあわせ技で自信を持って着手しました」

03

鉄道も人も

ネットワークが大切!

―アプリ制作のノウハウをほかの鉄道会社から教わったとのことですが、同業他社と情報を共有したりもするのですね。

永田「そうですね。社外のネットワークが社内の仕事に活きることは多々あります。同業者といっても単なるライバルではありません。鉄道に乗り換えがあるように、鉄道会社、そしてアプリ業界にも連携が必要です。鉄道アプリの先駆けとしては、JR東日本アプリ、東京メトロアプリ、東急線アプリが存在していました。3社間において、アプリ担当者連絡会が発足しており、その仲間にいれてほしくて、アプリも持っていないのにつてをたどってなんとか入れていただきました。同業他社へは社内でコネクションを持っている人に協力してもらって繋げてもらうということもあります」

―同じお仕事をされていると、共感することなども多いのでしょうね。

永田「やはりみなさん苦労するポイントは同じ。関東エリアの鉄道会社全体で『鉄道アプリ』というカテゴリを盛り上げようと結束していて、ある意味同志なので、困ったときには相談できますし、参考になるポイントも多いです。アプリ開発を予定している会社には、お声がけして参加していただき、その規模はいまや11社局になりました。西武線アプリは他社さんがやっていないことをやっているので、質問されることが多いですね」

04

最初から明確だった

完成形のイメージ

―永田さんご本人としてはどういったイメージを持たれてアプリを制作されたのですか?

永田「まずは明るい印象に仕上げることです。強く頭にあったアプリ使用時のイメージは、小さなお子さまとホームで西武線アプリを見ながら『次はこの電車が来るよ』とほほ笑む親子の姿。そのときにアプリの画面が堅苦しいと絵にならないですよね。また幅広い年齢層のお客さまが使われるので、『老若男女を問わず受け入れてもらえるデザイン』と『使いやすい操作性』を最大のコンセプトとして進めました。

―アプリが公開されて大きく変わったことはありますか?

永田「西武線アプリの最大のウリは、実走する電車の形式をアイコンで表示していることと、ラッピング電車の位置を検索できることです。スマートフォンを片手にかわいいラッピング電車の到着を待つ親子連れや、目的の車両を撮影する方にとっては、今までお客さまセンターに電話で問い合わせしていたことを考えると、大きく変わったといえるのではないでしょうか。路線競争力や沿線価値の向上を考えたときに、お客さまには便利に、従業員には業務の効率化ができるように……と、さまざまな立場の方を考慮して開発したので、こういった成果が目に見えるとうれしいですね。

最大のウリである電車のアイコン表示(一例)

多くのお客さまに触ってもらうための体験モニター
(所沢駅など5駅に設置)

05

アイコンに込められた

強い想い

―列車の位置がアイコンでわかるというのはすごいですよね。

永田「当社独自の、電車の位置と車体番号がリアルタイムで収集できる装置(列車情報装置)から情報を出力し、アプリ上で車両アイコンに変換するという仕組みです。視覚的に把握できるのでわかりやすく、また乗車する車両に親しみも持っていただけると思います。乗換検索サイトやアプリは使いやすいものがすでに市場に出回っており、後発の西武線アプリがそれらと直球勝負をしても勝ち目はありません。でもせっかく作るのであればと『日本一の鉄道アプリ』を目指し、当社だけが出すことができる情報は何か、それを最大限に活用する方法は、と考えた末に実現したアイデアです。開発時には鉄道各社のアプリを使いながら実際に乗車して回ったりもしたのですが、やはり列車位置の精度に関して各社とも苦労していることがわかり、システムを作る際にはメーカーのエンジニアの方にはかなりの無理難題をお願いしてしまいましたね(笑)」

―かわいいアイコンの裏にはそんな苦労話もあったんですね!

永田「でもその甲斐あって、西武線アプリの列車位置の精度はどこよりも即時性が高いと自負しています。またアイコンといえば、待ち受け画面に表示されるアプリ自体のアイコンも、画面上でほかのものと並んだ状態でどれだけ目立つか、試作を繰り返していまのものに決定したんですよ。デザイン面では、洗練されていることだけにこだわるのではなく、幅広いターゲットを意識してわかりやすさを重視しました」

他社鉄道アプリアイコンとも入念に比較

試作を繰り返したアプリアイコン案

06

西武線アプリはお客さまと西武鉄道を結ぶ

ご縁のようなもの

―アプリ開発にあたって大切にしたことを教えてください。

永田「スマートフォンアプリの運営で一番重要なのは、使い続けていただくことです。せっかく興味を持ってインストールしていただいても、関心がなくなり、使わないと判断されると削除されてしまいますよね。私は、インストールはゴールではなく、ひとつの出会い、ご縁のスタートだと思っています。そのあとのお付き合いが続くかどうかはアプリの出来次第。そのためには遊び心がないとダメだと考えました。スタンプラリーや電子入場券の機能を取り入れたのもその一環です」

―今後取り入れたいコンテンツやキャンペーンなどはありますか?

永田「『のるタップ』サービスの開始をきっかけに、キャラクターのラッコロをもっと活躍させたいです! ラッピング電車にして、その車両に乗車すると特典がダウンロードできるようにしたりして。アプリ内で決済できる鉄道グッズのネットモールも作りたいですね。あとは、写真コンテストなど、お客さま参加型イベントもいいかもしれません。ほかには特急券や座席指定券をもっとスムーズに買えるようにする、など……。トレンドも意識しながら、かといって目先の流行りに惑わされない、実用的かつ楽しい企画を展開していきたいです」

ラッコロが色々な表情で皆さまをお出迎え!

07

いままでの経験の

集大成としての、アプリ開発

―今回のプロジェクトに取り組んで、どのような感想を持たれましたか?

永田「何かを乗り越えたとか新しいことにチャレンジしたとかいう感じではなくて、淡々とできることをやって、経験をそのまま形にできたという感想です。走っている電車の位置をアイコンで表示できたのも、当社独自の信号設備で車体番号をリアルタイムで収集できる装置があることを知っていて、その装置から情報を出力してもらいアプリ上で車両アイコンに変換して表示するというアイデアが実現したからですし、IT技術に関しても入社当時にはWindowsもなかったところからシステム部時代に貪欲に知識を吸収していったおかげで身についたものですしね。一言でいうと“巡り合い”でしょうか。」

―今回のさまざまなご経験のなかで得たものを教えてください。

永田「西武線アプリをご利用されるお客さまが当社へ期待することが、きちんと理解できるようになったと思います。アプリを手掛ける前までは裏方の仕事が多く、フロントでお客さまとやり取りをしたり声を直接聞いたりということはなかったんです。そうするとどうしてもお客さまのニーズと社内意識の乖離が起こりがちなのですが、アプリを公開してからはいろいろなイベントでお客さまから感想を伺ったり、お客さまセンターに寄せられる声に回答する機会をいただけるようになり、またSNS上でのアプリへの指摘について考えたりすることで、よりお客さまの目線で考えることを学べたと思います。それに伴い各部の業務への見方も変化し、そういった面でも視野を広げることができました」

08

変わっていく社会のなかで

変わらず頼られる人間でありたい

―今後かなえたい目標や夢はありますか?

永田「今後10年で、さらにテクノロジーが発展し、社会の仕組みや人々の意識も変化していくでしょう。交通事業者には人がもっと移動したくなる提案をしていくこと、より自由に、より活発に移動できるようにインフラを整えることに大きな期待が寄せられています。その変革の波に西武グループはうまく対応できると思いますが、そんななかで頼りにされる存在になれるとうれしいですね」

―西武線アプリを利用される皆さまにメッセージをお願いします。

永田「西武線アプリをご利用いただきありがとうございます。ご要望などございましたら、ストアのコメント欄やTwitterなどのSNSでつぶやいていただければ、できる限り対応していきます。こういったお客さまひとりひとりからの声に少しずつお応えしていく小さな積み重ねが、アプリの信頼性に繋がっていくと考えておりますので、率直なご意見をいただけると大変ありがたいです。担当者のモットーは『みんなでつくろう西武線アプリ』です! 6月末から本格始動した『のるタップ』サービスもぜひ活用してくださいね!よろしくお願いいたします!」

永田 任弘

Vol.5 Profile

永田 任弘(ナガタ タカヒロ)

計画管理部 管理課
1990年 入社

※所属等は、取材当時のものです。

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