緑とアンティークに囲まれた、丘の上の隠れ家。ゆるやかな時間が流れる〈ブリキッカ〉で心をリセット。
内山清高さん・元子 西武線在住歴約40年
清高さんは横浜、元子さんは岩手出身。入間市などを移り住み、自宅購入を機に稲荷山公園エリアに根を下ろし、今に至る。
子育てがひと段落したのをきっかけに、「好き」を集めた空間に自宅をリノベーション。
入口で靴を脱いで店内に入ると、外国の文具や紙ものの雑貨が並ぶ小部屋が現れ、そこを抜けるとアンティークの食器や古道具がディスプレイされたフロアが登場。そこからシームレスに、カフェスペースへとつながる〈ブリキッカ〉。ヨーロッパの田舎町にあるお家にお邪魔したような、素朴で素敵な空間が広がります。
お店がオープンしたのは、今から15年前。店主である内山さんご夫婦が、住まいとしてこの一軒家に引っ越してきたのがきっかけでした。
「もともとここは友人の家で、その友人と1階でレストランを営んでいたんです。でも、その子がほかの場所に家を建てて引っ越すことになり、この家を気に入っていたので、私たち夫婦が買い取って移り住むことに。最初は住居として暮らしていただけでしたが、子どもたちが巣立って、子ども部屋もいらなくなって、そしたら下でお店ができるね……って話になりまして。お店をやるために選んだ物件じゃないから、造りも後から手を加えたり、行き当たりばったりなんです(笑)」と、話すのは妻の元子さん。空間に暮らしの温度をそこはかとなく感じるのは、そんな経緯も関係しているのかもしれません。
「子どもがアメリカ留学している時に、あっちでファイヤーキングのアイテムをたくさん見つけて、『じゃあ、買い付けてこっちで売ろうかな』というのがお店の始まり。その頃は、入口のスペースが売り場でした。でもそれだけじゃつまんないから、アンティークのアイテムを置くようになり、お茶を飲みながら買い物ができたらいいなと、カフェスペースを作ったんです」(元子さん)
昔からアンティークが好きだったと話す元子さんですが、友人とレストランを営んでいた頃もインテリアを担当し、お店の道具を集めるのが得意だったそう。
「当時は米軍基地内にあるセレクトショップによく行っていて、アメリカの雑貨や子ども服を買ってお店に置いたりしていました。今は、ドイツ、オランダ、ベルギー、チェコ、フランスで買い付けたものを中心に置いています。廃屋が好きで、そこにある朽ちた感じというか、“やられてる感”のあるものに惹かれちゃうんです。好きなものしか買ってこないから、自然とそれがお店らしさになっているんでしょうか。扱うアイテムは変わりましたが、今も昔も、やっていることはあんまり変わらないですね」(元子さん)
人生の大きな機転となった、“米軍ハウス”との出会い。
西武線居住歴は40年になる元子さん。住み始めたきっかけは、“米軍ハウス”との出会いでした。
「独身時代に、友人が住んでいた米軍ハウスに遊びに行ったら気に入っちゃって。それで自分も米軍ハウスに住みたくてこの辺に引っ越してきたんです。昔はここから駅の方に続く道沿いにずーっとハウスが並んでいて、外国みたいな景色が広がっていたんですよ。結婚してからも米軍ハウスを転々としていましたが、今はもうだいぶ数が減っちゃいましたね」(元子さん)
〈稲荷山公園〉はもともと米軍基地の一部で、園内にたくさんの米軍ハウスが建てられ、その一帯がアメリカ村と呼ばれていました。その後、米軍から基地が返還され、米軍ハウスが安く貸し出されるようになり、そこに細野晴臣さんなどのちに有名になったミュージシャンや若い芸術家が集まるように。稲荷山公園エリアは、たくさんのアートカルチャーが生まれた場所でもあります。
「僕らの周りにも音楽をやってる友人がたくさんいましたね。しょっちゅう誰かの家に集まって遊んだり、ハウスゆかりのミュージシャンたちが主催する『ハイドパークミュージックフェスティバル』っていうイベントがあったり、楽しい時代でした。自由な空気感とアメリカンカルチャーが漂う街の雰囲気に、居心地のよさを感じる人たちが好んで移り住んできたように思います」(清高さん)
当時の米軍ハウスは、家賃が安くて土地が広い上に、建て増しやDIYも自由。都心では考えられない条件ですが、「古い物件が多く、自分たちで直しながら暮らしていくのが当たり前だった」と清高さんは言います。そして、「公園が近くにあることも、とても大きいですね」と元子さん。
「稲荷山公園は、芝生だらけでどこでもゴロンとなれるのが最高。簡単なつまみを持って友だちとピクニックしたり、ビール片手に公園の手前にある見晴らし台で夕日を眺めたり。特にコロナ禍になってからは、開放的になれる場所が近所にあるってことに、とてもありがたみを感じました」(元子さん)
不安が続く日々の中で、〈稲荷山公園〉のおおらかな自然が心を癒してくれたと言います。
「無理せずマイペースに」が、らしく生きる合言葉。
お店を始めたことで、狭山市界隈の店同士のつながりが生まれ、内山さんご夫婦の交友関係も広がっていきました。
「ジョンソンタウンから入間市に引っ越してきたカフェとギャラリーの〈アハト〉さんは、とても素敵で好きなお店のひとつ。東所沢にある鉄鋼家具と雑貨の〈スタジオキャラバン〉さんが所沢航空記念公園で蚤の市や、年に数回、地元のパン屋さんやコーヒー屋さんたちと『キャラバンマーケット』っていうマーケットを開いていて、そういうイベントで知り合いが増えていくのも楽しいですね。安い家賃で広いスペースを借りられるから、こっちにアトリエを構える作家さんも増えて来ているように思います」
清高さんが会社勤めを辞めてからは、ご夫婦でお店に立つようになり、ランチをスタート。営業は週末の3日間だけと限定されますが、「無理せずマイペースに」と二人は口をそろえます。
「なるべく力を入れずに、楽にできればいいかなって。お店を始めた時から、ずっとそれは変わりません。宣伝もなるべくしてこなかったので、最初の頃は知人のクチコミで来たお客さまばかりでした。最近は、インスタを見て知ったというお客さまがとても増えましたね」
SNSの影響に困惑することもしばしばあるそうですが、時代に振り回されることなく、内山さん夫婦は至って自然体。二人が生み出すゆるやかでやさしい空間に身を置いていると、忙しい日常で忘れがちな、“力を抜く”ことの大切さを気付かせてくれます。
今回ご紹介した〈ブリキッカ〉について
■住所:埼玉県狭山市入間川4-14-6
■電話:04-2953-6351
■営業時間:12:00〜17:00(ランチは予約制)定休日:月〜木
■公式サイト:https://koodoo.jp/brikikka/
※営業日・営業時間はインスタグラム(@brikikka)でご確認ください
※2024/02/28時点の情報です。
(photo:Wataru Kitao text:Ayano Sakai)