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わたしの大学、わたしの江古田。
映画を学ぶ日芸生が
江古田に求めるものとは?

池袋駅から西武鉄道池袋線各駅停車に乗って3駅先へ。江古田という街に到着する。
どこか懐かしい雰囲気が漂うこの街には、日本大学芸術学部・武蔵大学・武蔵野音楽大学の3つの大学が存在する。いわゆる学生の街だ。
ここでは各大学の学生に街や大学の魅力を聞きつつ「もし1つ希望が叶えられるとしたら街や大学に何を望みますか?」という質問をしてみた。

今回は日本大学芸術学部に通う森雄大さんと甲斐力哉さんに話を聞いた。

2人が所属している映画学科は、監督コース・撮影録音コース・演技コース・映像表現理論コースから構成される。

森さんは監督コースを専攻し、脚本や演出、編集などの技法を学び、実際に森さんが監督として他コースと共同で映画制作を行うという。
甲斐さんは映像表現理論コースの映像専攻に所属しており、劇映画やアニメーション、ドキュメンタリーなどの映像表現の基礎を学び4年間かけて深めていくという。甲斐さんは現在卒業制作として、短編ドキュメンタリー映画の制作の真っ只中だ。

ちゃんと成し遂げて、卒業したい。

甲斐力哉さん(左)と森雄大さん(右)

「正直、大学は大変です。でも学んでいることが直に将来に関わってくるほど専門的なことを学んでいるので充実感がありますね。」

映画学科・放送学科・デザイン学科・音楽学科・美術学科・文芸学科・演劇学科・写真学科の8学科から成る日芸は、一般教養と並行して各分野での実践的な授業を通して自分の専攻のノウハウを身につけていく。
日芸出身者の中には、脚本家の宮藤官九郎さんや俳優の真田広之さん、作家のよしもとばななさん、写真家の篠山紀信さんなど数々の著名人が名を連ねる。

二人が所属する映画学科では実習課題として、学生間で撮影班を組み映画や映像作品を1から作らなければならない。制作は主に夏休みなどの長期休暇から始まり、休暇が明けてからも授業後や休日などで時間を確保し作品を完成させる。その期間は約半年を要する。制作にかかる費用は全て学生たちの負担である。

「実は何度も大学を辞めようと思ったんです。課題だった副論文が書けずに留年が決まってしまい、3年生の時点で退学しようと…。けどその時に同期が引き止めてくれて。お世話になっている教授もそうでしたね。もちろん怒られますよ。というか呆れられてますね(笑)。僕自身が悪いのは分かってますから(笑)。けど教授が言ってくれたんです。『お前がいい作品を作って卒業するのを見たい』って。そんなこと言われたら、ちゃんと成し遂げてから卒業したいとしか思えないですよ(笑)」(甲斐さん)

教授と生徒、また先輩と後輩との距離の近さもこの大学の魅力と言える。

「卒業してから外の現場で先生や先輩と一緒に仕事をしたという話をよく聞きます。今も第一線で活躍されてる先生から学べるということはとても貴重だし、先生自身も制作者だからこそ生徒である僕たちの目線に立ち親身になって指導してくださるんだと思います。それは先輩方との関係においても同じことが言えますね。ただ距離が近いのではなく、大前提としてリスペクトがあります。」(森さん)

刺激的だからこそもっと自由でありたいんです。

「大学内ではよく他学科の展示を目にします。同世代の人が表現したモノがこんなにも身近に溢れていると、とても刺激になりますね。それって、充実した施設が揃っているこの大学だからこそ得られる刺激だと思うんです。僕らが通う映画学科も、実習で使用するスタジオや機材の充実度は全国でもトップクラスだと思います。ただ、決められたカリキュラム外での自主制作などになると借用が結構厳しいんです(笑)」(森さん)

「そういった厳しさのもと制作をしているので、貴重な機材もより丁寧に扱うようになりますし、借用の許可が下りた後の制作への熱量はより高まりますね。ただもし一つ希望が叶えられるとしたらその部分での自由さを求めますね」(甲斐さん)

居心地のいい街、ただ今の江古田は…。

「僕は実際に約一年半江古田に住んでいました。学生に優しいお店が多いし、そこで出会う人はみんなあたたかい人ばかりでしたね。“えんむすび”という行きつけの飲み屋で父親くらい年の離れたおじさんと飲んで話したり、将棋を指したりしました(笑)。そのおじさん、『この店があるからなかなか江古田から離れられなくてね』って。なんかそういう居場所だったりアットホームな空気が江古田っぽいっていうのかなあ。あったかいですよね」(森さん)

江古田には“江古田銀座商店会”や“江古田市場通り商店会”など10の商店会が存在する。どの通りも多くの店で賑わっており、ノスタルジックな雰囲気を感じることができる。

「江古田は好きですね。今っぽさもありつつ、商店街なんかは下町感もあって。飛び抜けて高い建物もないですし、静かな住宅街を歩くのも好きです。“街”として機能しているなあと感じます。
ただ、今の江古田は学生で溢れてるんです(笑)」(甲斐さん)

2017年度に武蔵野音楽大学が入間校舎を江古田校舎に統合をし、日本大学芸術学部も今年度から所沢校舎を江古田校舎に統合した。よって学生の数は一気に増えたという。

「昼休みの学食なんかは人が溢れてしまっています。昼食をとる場所や制作会議の場所を探すのも一苦労です。かと言って校舎外の喫茶店などを毎回利用するわけにはいかないし…。そんな僕たちのような学生が気軽に集まれるようなフリースペースがもっと街にあったら良いのになと思いますね。少し広い公園とか。求めることはそれかな」(森さん)

「でも結局、居心地がいいから5年生になっても江古田に通ってるんですけどね(笑)」

人も街も変わりゆく江古田。そんな中で日芸生はこの街とともに夢を追い、時に立ち止まり、成長していくのだと感じた。

記事を書いた人

松田真織

プロフィール

熊本県天草市出身 日本大学芸術学部映画学科を卒業後、芸能事務所j.clipに所属。 役者、ナレーターとして活動中。最近の趣味は銭湯で整うこと