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江古田観測日誌 Vol.5『COCONUTS DISK江古田店』さんが選ぶファンシーな1枚

「COCONUTS DISK」とは?

これから二回にわたって江古田唯一の中古レコード店『ココナッツディスク江古田店』さんを紹介してまいります。『COCONUTS DISK(ココナッツディスク)』はオールジャンルの中古レコード・CDを扱う、現在都内に3店舗(池袋、吉祥寺、江古田)あるお店です。ミュージシャンも足繁く通い、中古だけではなく一部新譜、カセットやVHSなどの取り扱いもあります。池袋、吉祥寺…で江古田?!とその立地をいぶかしんだワタクシなのですが、1号店を構えたのは石神井公園という西武線に縁のあるお店です。また、この3月にはめでたく創業35年という由緒ある中古レコード店。前編は、私の仮説「江古田はファンシー」(Vol.1参照)音楽編として、江古田店店長松本さんが選んだ「ファンシーに寄せた私なりのこんな感じかな?という程度の」ディスク紹介です。

音楽を読むことのシラケ感を越えて

本題に入る前に前置きをさせて下さい。正直私は音楽に疎いです(往年のJPOP専門の元吹奏楽部員)。そのためか「音のない読む音楽(記事)」ほど白けるものはない、と思っています。なのにどうして、ココナッツディスクさんを取材しようと思ったかというと、私の仮説「江古田はファンシー」を音楽で語れば説得力も出るしオシャレ(!!)じゃない?という目論見があったからです(ドヒー!)。でも果たしてそんなナンパな気持ちで、話を聞けるのか?と尻込みしていたところ、店長の松本さんは「和レアリック」という造語で『和レアリック・ディスクガイド』(ele-king books)を出版したばかりだという。「もしかしたら聞けるかも…?」くらいのかすかな希望がわいてきました。私は「ファンシー」のように言葉が気になるタイプなので、「和レアリック」の造語に勝手な面白みと親しみを感じたのです。しかも洋楽じゃないみたいだし?!本の帯に書いてある「バレアリック」も「レフトフィールド」も分からないけど、いざ!!…取材決行です!

お題その1「ファンシーな一枚」

事前に松本さんには「江古田観測日誌Vol.1 江古田はファンシー」の記事を読んでもらいその上で選んでいただきました。ファンシーの定義・解釈はお互いに様々なのですが、江古田については「雑多」という見解で一致しました。

松本店長(以下、松):「ファンシーとかあの絵(記事の写真)を見て勝手に、レコードじゃなくてCDシングルの短冊注1が思いついて…」

― おおおお!短冊、いいですね!…あんまり当時お金なくて買えなかったけど。

『井上陽水 夢寝見』 このジャケット写真の夢見感ったらない。見飽きません。

松:ちょっと時代は(ファンシーと言っていた時期と)ずれるかなって感じはするけど(1989年発売)。ミックス注2にもいれた曲。7インチ注3も出てるんですけど、見た目のファンシー度は短冊の方が高い。ちょっと聞きますか?日産セフィーロっていうテレビの宣伝で使われてて「くうねるあそぶ」っていう(キャッチコピー)。
― まさに昭和から平成になるとき…。
松:そうなんです。(松本さんがここ数年来)「いいな」って勝手に思って発信してたら結構、海外からの反応もあり、この感覚は今全然いけるんだな…って感じます。
― CMの絵は思い出せないですけど…。あ、でも面白いですね…いいですね。本当に突然聞いても、いいです。
松:そうなんですよ。ファンシーがまた一周りしてファンシー…って考えると、ここに残っていたファンシーだけど、いままた「現役ファンシー」。そういう見方もできるんじゃないかと…。懐古趣味的なファンシーだと(時代が)過ぎてしまって…。でもこれは古臭さが今の段階で聞いてもない。新曲って言っても通用するかな、という作り方。ただ曲自体聞くと、ファンシーかというと怪しい。普通にどっちかっていうとフュージョンとかメロウとかになってしまうような…。
― そうですね。
松:絵面で勝負というと短冊が意外といいかな?と。

さすがプロ!CD短冊とは憎いセレクトです。私やられました!はい、ファンシーです。洗練されたファンシー…。1枚で心地いい気分に持っていかれながら、続けて二枚目。

お題その2「江古田的一枚そしてちょっとファンシー」

松:その…江古田ー!ってなると…。
― すみません。難しいお題を…。
松:あ!あれだ、ちょっと待っててください(しばしレコード探し)。
松:これどうでしょう??
― 何ですか?これは???なーに?これ???(ちょっと、よくわからなくて動揺)

『マンデリン・ストリート 鈴木 彗(さとし)』

帯付きは、中古レコードでは貴重。慎重に袋から出し実物を手に取りました。

松:たまたま、江古田の『フライングティーポット』で定期的に今もライブしてる方で。
― えええ!!!

江古田でライブってどういうこと??まず、現役でご活躍なことに驚きましたし(ごめんなさい)、さっきまで全く私の世界に存在しなかった「鈴木 彗」さんが突然、私の隣にやってきた?!そんな「唐突な親近感」半分、「急激な接近感」への戸惑い半分…と言えば伝わるでしょうか?
なお、このアルバムは恐らく80年代の作品とのことです。ちなみにこの鈴木 彗さんの別のアルバムは前述の『和レアリック・ディスクガイド』でも紹介されています。
自主製作レコードの出現にあ然としながらも、曲を聴いてみました。松本さん曰く「いなたい」。その音楽を聴きながら、まず味わいたい外観とクレジット「歌・詩(一部)・曲・Arr(アレンジ)鈴木 慧(さとし)」。松本さん曰く「宅録」。あまりにキュンとする(つまり「ファンシー」)ため全曲名をここに掲載します。

SideA
  • 1. 一杯のコーヒーから
  • 2. さらっと・ゆるして~コーヒー通の恋人
  • 3. やさしい風景
  • 4. 灰色のひととき
  • 5. 煙草とれくいえむ
SideB
  • 1. Mandhelln’ Street
  • 2. かもめの声ばかり
  • 3. 灰色の舞台
  • 4. 冬が去る頃
  • 5. Wander Cat

モノクロの写真の構図も無性にセンチメンタルで、まさに唯一無二の世界観。これは江古田的1枚というか私的にはファンシー認定ですね。曲もなんとも言えずメロウ…?
そして私が啓示を受けたのは、ワープロで刷られたであろう黄色の帯に書かれたコピーです。唐突ですが、皆さんは覚えているでしょうか?連載第一回目の冒頭に私が書いた江古田観、私の焦燥を…。ここに答えはあった!

問い:「若者の町・学生街でありながら何だか『駆け出せないもどかしさ』があるなぁ」(私)
答え:「走り去るための街でなく、踏みしめるための、この街。 マンデリン・ストリート」
(鈴木 彗)

「踏みしめるための、」この「、」利いてますね…。しみじみ味わいたい。私には詩情がないのでこのポエジーさにクラクラします。さしずめ、こちらはマンデリンならぬ「江古田ゆうゆうロード」を踏みしめたらいいのだろうか…?そんな愚問を呈す私を放って、これを読んでいるあなたはちっとも全貌が分からない「ミステリアス」(松本さん)な音源を聞きたいはず!このアルバムが「江古田的」である理由。そしてこの記事が町を巻き込んで立体企画となった今、この瞬間。鈴木 慧さんは松本さんのインタビューにもあるように、定期的に江古田の『フライングティーポット』でライブをしています。朗報です!…と言っても実は先日3月7日に終わってしまったばかりなのですが、次回の公演も予定ありです!これは行くしかない!

さて、前編では、ディスク紹介に終始しましたが、次回は「走り去るための街でなく、踏みしめるための、この街」というわけで踏みしめたその先「江古田で」発掘された「和レアリック」周りとお店のお話、「観測不可能?!だった『ココナッツディスク江古田店』日誌」です。

【web上ファンシー捜索願?!☞】松本さんとの余談で気になる話題が…

「(かつて)プリントトレーナーみたいなのが、江古田の町で一個大ヒット商品があるらしくて。トレーナーにプリントしただけの…刺繍だったかな?それを買いにみんなが行列した…」そのトレーナー、きっと「ファンシー」(Vol.1参照)に違いありません!ただし、一体いつ頃のことなのか…情報の確認が取れていません。もしも詳細をご存知の方がいらしたら教えて下さい…?!

注1:直径8cmのCD。短冊のように縦辺が長い長方形。日本では1988年に発売され1990年代に多くのシェアを誇るも、1990年代後半以降市場から徐々に姿を消していった。
注2:Willieこと松本さんが選曲したミックスしたシリーズ「Walearic」のひとつ。ここで聞けます
https://www.mixcloud.com/willieeilliw/walearic-extra-for-j-wave-813fm/
注3:直径約17cmのシングル盤に多い小型レコード

ココナッツディスク江古田店

練馬区豊玉上1-9-10
www.coconutsdisk.com

記事を書いた人

奥 光子

プロフィール

今年の夏に都内某所より江古田に転居。『ココナッツディスク江古田店』 で私が選んだファンシーな1枚。『中森明菜 SILENT LOVE』明菜から届くAIRMAIL仕様!たまりませんね。しかも明菜は、西武線沿線、清瀬育ち。言うことなし!