上石神井のイベントスペース〈東京おかっぱちゃんハウス〉が目指すのは、誰もがくつろげる居心地のいい場所。
Boojilさん・伊藤篤志 西武線在住歴約9年
2人とも神奈川出身。上石神井にある築70年の古民家との出会いから〈東京おかっぱちゃんハウス〉をスタート。
人が気兼ねなく交流できる場所を、いつかはじめたかった。
100平米もあるという立派な古民家は築70年。かつて三世代の家族がここで暮らしていたといいます。玄関で靴を脱いで上がると、イベントスペースとして貸し出す大広間へ。ふすまを取って3間をつなげた20畳の空間では、音楽ライブやトークイベントなどが開催され、ゆったりと過ごすことができます。昔ながらのこのお屋敷を偶然、インターネットで見つけたのは、Boojilさんがメキシコ留学から帰国してわずか2日後のことでした。
「彼と一緒に住む場所を探していたらたまたま見つけて。10LDKって書いてあって、ウソじゃないかと思って見に来てみたら本当でした(笑)。状態もすごくよくて。キッチンはリノベーションしましたが、大広間はほとんど修繕していないんです」(Boojilさん)
当初は、こんなにも広い場所に住む予定はなく、借りることにとまどっていたという伊藤さんですが、Boojilさんの熱意を受け、この場所を一緒に借りることに。伊藤さんの友人と3人でシェアしながら、人を招いてイベントを開催する“住み開き”のようなかたちで〈東京おかっぱちゃんハウス〉をスタートさせました。
台所はリノベーションし、Boojilさんと縁のあるメキシコの手書きのタイルを使ったカウンターを設置。イベント時には飲み物やランチを提供しています。新たにはじめたセレクトショップでは、メキシコの民芸品や雑貨のほか、Boojlさん、伊藤さんとご縁のある国内の作家さんの作品が並んでいました。さらに、2階には、真っ白な壁に囲まれたギャラリースペースもあり、展示会や撮影スペースとしても使われています。
「はじめた当初の企画展は、2人で考えてこちらから声をかけて開催していたんですが、お客さまからやってみたいという相談がだんだんと増えていったんです。今はこれからプロを目指す人や何かものづくりをしている人の発表の場としても使っていただいています。コロナ前には、ウエディングパーティの開催場所として借りる方もいらっしゃったんですよ」(Boojilさん)
石神井エリアの心地よさに惹かれて。この地だからできること。
Boojilさんと伊藤さんは神奈川出身で、高校時代のクラスメイト。Boojilさんはイラストレーターとして活動し、伊藤さんは企業に勤めるビジネスマンでした。Boojilさんは平面の表現である絵に“飽き”を感じて、メキシコへと留学。その頃から、「どこかで自分の場所をもちたい」という気持ちが芽生えていました。
「メキシコの民芸品がもともとすごく好きだったので、スペイン語と民芸品づくりを学びにメキシコに留学したんです。メキシコでは人間関係を学ばせてもらったなと思っていて。バスで移動している時に隣になった人ともまるで友だちみたいにおしゃべりするんです。屋台の人とも会話するし、道端にいる人とも話すし、だからみんな元気なのかなって。会話が人の元気の源になるんじゃないかと思っていて。メキシコの人たちのようにもっと気兼ねなく交流できたりする場所を、どこかで持ちたいなと思っていました」(Boojilさん)
“靴を脱いで上がる場所で、緊張せずに人とふれあえる空間”を思い描いていたBoojilさんは、ぴったりなこの物件と出会ったことで、上石神井に初めて暮らすことになりました。それまでは西武線に乗ったこともなく、縁もゆかりもない土地でしたが、物件ありきでここへ引っ越してきたそう。現在は、もともと音楽やアートが好きだった伊藤さんも「ここでなら好きなことを生かせる」と仕事を辞めて、今ではBoojilさんと一緒に運営しています。
引っ越してきた翌月に開催された、年に1度のイベント「井のいち」に参加して以来、石神井エリアの人々と交流が生まれ、つながりが増えたのだといいます。
「音楽ライブやクラフト市があったり、古書店の出店や朗読会など、とても平和な催しの『井のいち』は、石神井エリアで個人店をやっている方たちが有志で協力しあって開催されているんです。ここは、自然と人が集まって、気持ちよく、協力しあえる人たちがいる地域というか。すごくやさしい方ばかりで、個々の個性もあって。この地域が好きで、ここに住んでいる人たちのことも好きになれる、そんな場所なんです。23区のなかで、こんなふうに田舎のようなつながり方があるのは珍しいんじゃないかなと思います」(Boojilさん)
人と人が出会い、自然と会話が生まれ、「心が密になる」そんな場所に。
「たとえば、ギャラリーに行っても、その場で出会った人と話したりする機会ってないですよね? 自分で見て、感じるのもいいけれど、感想を言い合ったり、一言交わすことではじまる交流もあると思うんです。昔からよく思っていたのは、自分は発表する側で場所を借りる立場でしたが、居心地があまりよくないと、作品を見終わった後、みなさん帰ってしまうんです。それがとても心苦しくて。お客さま同士で話せたらいいなと思っていたし、紹介したいし、つながり合えるのになというのがずっとあって」(Boojilさん)
同じ目的を持った人同士が出会うきっかけになる居心地のいい場所にしたいと考えていたBoojilさんにとって、この建物の最大の魅力は「心地よさ」だと話します。
「誰が来ても落ち着くと言ってくれるんです。マンションの一室とは大きく違う、昔ながらの造りや間取りがもつ雰囲気もあると思いますが、お客さま同士が隣り合っても、圧がなく過ごせるのがこの場所のいいところ。自然と家族とか友だちみたいに打ち解けてしまうんです」(Boojilさん)
「家みたいなお店なので、入るのに少し勇気がいるかもしれませんが、入ったらとてもアットホームに感じてもらえると思います。入ってなじんでくれたら、濃密な時間を過ごしてもらえるはずです」(伊藤さん)
今はなかなか“密”になれない日々が続きますが、心はぐっと近づける、そんな場所を〈東京おかっぱちゃんハウス〉はずっと変わらず提供してきました。
「生の人とのふれあいっていうのは、どの時代にも絶対に必要なことだと思っていて。海外で言葉が通じ合わなくても、たくさんの方の親切や出会いに触れて、心の会話をしてきた経験があります。だから、日本でも、特に都心だと距離が生まれがちですが、そうしたふれあいを一番大事にしたいと思っています」
思わず長居しては、おしゃべりが弾む。そんなふうに人をリラックスさせてしまう空間と、Boojilさん、伊藤さんの人柄に惹かれて多くの人が集まっていた、かつての〈東京おかっぱちゃんハウス〉のように、にぎやかな声が聞こえる日もそう遠くはないはずです。
今回ご紹介した〈東京おかっぱちゃんハウス〉について
■住所:東京都練馬区上石神井3-30-8
■電話:03-6904-7606
■公式サイト:https://www.okappachan.com/
※営業時間、定休日は公式サイトより、イベントスケジュールをご確認ください。
※2024/2/28時点の情報です。
(photo:Natsumi Kakuto text:Kayo Yabushita)