老舗の実績に、遊び心をプラスして。〈細田木工所|SOF SENSE OF FUN〉が企む街開き。
細田真之介 西武線在住歴27年
生まれも育ちも東久留米。家業の〈細田木工所〉を3代目として引き継ぎつつ、「Sense Of Fun」としても活動する。
地元に根づいて60年。親子3代かけて進化し続けている〈細田木工所〉。
細田真之介さんがものづくりに魅了されたのは、高校生の時。「父親が、システムベッド(2段ベッドの下がデスクになっている家具)をつくってくれたんです。こんなのが手作業でできちゃうんだ!って、すごく興奮したのを覚えています」。父の仕事ぶりに魅了されたのは、ちょうどサッカー部を辞め、夢中になる対象を失ってしまったタイミングだったことと無関係ではなかったかもしれません。
その後、大学は理工学部建築科へ進学して知識を蓄え、休暇中には家業を手伝って現場の経験を積み、そうして真之介さんはだんだんと家業に参画していったのでした。
現在はお父さんと真之介さん、奥さんの季実子さん3人で営んでいる〈細田木工所|SOF SENSE OF FUN〉。初代の祖父は建具屋として、2代目の父は1級建築士の資格をもち、住宅のリフォームやオーダーメイド家具などを手がけ、3代目の真之介さんは自社製品の開発・販売、それを基軸とした新しいものづくりにも取り組んでいます。〈細田木工所〉は東久留米のこの場所で60年間、親子3代を経て、変化し続けているのです。
知らずして手に入れていた宝物。東久留米の恵まれた環境にいまになって触発されて。
真之介さんご夫婦はともに、生まれも育ちも東久留米。でもこの場所の魅力に本当に気がついたのは、お子さんが生まれてからだと言います。
「それまでは、のどかで何もないところだな、と思っていたくらい。だけど、自然いっぱいの川や公園がすぐ近くにあって、とてもいい環境に暮らしているって再確認したんですよね。あらためて考えてみると、僕は知らない間に東久留米の環境にずいぶん助けられてきていたんだな、とも」
そんな認識から、地元を盛り上げたいという気持ちが芽生えたのは自然な流れでした。地元に長年根ざしている会社の3代目として、何かできることがあるのではないかと考えるようになったという真之介さん。
そうして始まったのが「Sense of Fun(=遊び心)」というプロジェクトでした。この活動には友人たちを巻き込むことにしました。自分だけではできないことでも、各人の技能を持ちよれば、できることの可能性が広がるからです。メンバー9人は、カメラマン、ウェブデザイナー、建築士、映像作家など、みな手に職をもつ同世代。
「友人たちは会社勤めをしていますから、SOFの活動はあくまでも副業。でもその代わりに、自分の作品がつくれて、表現欲を満たすことができる。だから、楽しんで参加してくれていますし、大学時代の仲間のつながりなので、気心が知れていて仕事しやすいのもいいですね」
これまでパンフレット制作、店舗のブランディング、空間づくりなどを手がけてきましたが、現在は東久留米の街を舞台にしたプロジェクトを進行中(まだ発表できないのが残念!)だそう。じつは真之介さん、商工会の理事も務めています。根っからの地元っ子として街を活性化させるべく、内側からの改革も目論んでいるというわけです。
子育てしやすく、暮らしやすく。地元の人間として、東久留米をますます魅力的にするために。
真之介さんが直近でやりたいと考えているのは、DIY可の賃貸物件の運営。築年数の古い空き家は、東久留米には潜在的にたくさんあるはず。それらを開拓し、〈細田木工所〉を解放して、住む人たちが自分の家具を自分でつくるような、そんなことができないだろうか──。
「空き家を持て余している方は少なからずいるはずだし、住みたい側にとっても、家を買うという大きなリスクを負わずに楽しく暮らしをつくっていける。家を貸す側と借りる側、相互にメリットがある方法なのではないかと思うんです。そして〈細田木工所〉が、双方をつなぐ役割になれたらなって」
東久留米がますます子育てしやすく、暮らしやすく、楽しい街になるための構想のひとつです。「僕にとって制作は目的ではなく、手段。それによって生活を変えたい、それほどのインパクトを与えたいっていう思いのほうが強いんです。なので、もしかしたら僕は、気質としては職人ではないのかもしれません」
けれどもあくまでも地元の木工所として、地元の人の楽しい暮らしを応援する姿勢はぶれていません。東久留米の街開きを目指して、真之介さんは今日も、手を動かしながら頭をフル回転させています。
今回ご紹介した〈細田木工所|SOF SENSE OF FUN〉について
■住所:東京都東久留米市新川町2-9-7
■メール:info@senseoffun.co
■公式サイト: http://sof.boo.jp
※2024/02/28時点の情報です。
(photo: Natsumi Kakuto text: Mick Nomura/photopicnic)