“ちょうどいい”居心地のよさにあって、求められる声に応えるかけがえのなさ。〈焼き菓子malco〉のアイデンティティ。
村上祥子 西武線在住歴10年
卵、乳製品、白砂糖不使用の〈焼き菓子malco〉主宰。自宅に併設した実店舗を2019年オープン。
新居と店を同じ場所につくって、子育てと仕事の両立を実現。
以前から〈マルコ〉という屋号のお菓子屋としてイベントやマルシェに出店したり、卸したりはしていたものの、自分の店をもつことは考えていなかったという村上祥子さん。
「いつか子育ての手が離れたら検討してみてもいいかも、というくらいで、具体的には考えてはいませんでした」(祥子さん)
ところが数年前に新居を建てる際、建築家であり夫の譲さんから、思いがけない提案が。「わざわざ場所を別に借りてやるよりも、家をつくるなら店も一緒に、とかねてから思っていた」と、自宅に店舗を併設するという譲さんからのアイデアをきっかけに、駅からさほど遠くなく、人通りもほどほどにあるという、店舗の立地としても成立しそうな条件で土地を探すことになりました。
「彼女は会社員ではないから、産休を取るわけにはいきません。となると、子育てしている間はずっと仕事できないということになってしまう。それなら、家にいながら好きな仕事ができる環境を整えたい、と思ったんです」(譲さん)
そんな家族想いの譲さんの後押しで、2019年、実店舗の〈マルコ〉がスタートしました。
「まさか自宅で店をやるとは思っていませんでしたが、今にしてみれば、家から離れることなく、子どもが帰ってくるのを待ちながら仕事ができるのは、すごくよかったなと思っています」(祥子さん)
都心の隣の、空の広さ。住み慣れた“ちょうどいい”環境。
大学のために上京して以降、ほとんどの期間を西武線沿線で暮らしてきたという譲さん。就職先などの事情で、一度は沿線を離れたことがありましたが「そこが手狭になったので引っ越し先を探していたら、ネットで見つけた最適な賃貸物件が下井草で。わ、やっぱり西武線に引き寄せられてる!って(笑)」
子どもを通わせたいと思うような魅力的な幼稚園が近所にあったのも決め手になりました。そこで5年ほど暮らした後、新居を建てることになった際も、この界隈から離れることは考えられなかったそうです。
「地域での人間関係が構築されていましたし、子育ても含めて環境は変えたくなかった。知らない場所で突然店をやる、というのも現実的ではないと思いました。この辺りは畑が多くて、空が広い。新宿から電車でたった10~15分なのに、こんな景色が広がっている街って、なかなか貴重だと思います」(譲さん)
「この辺りは私にとって、すべてが“ちょうどいい”んです。緑がほどよくあって、静かなのが気に入っています。いろんな店がたくさんあるわけではないけれど、生活に困るほどではないし、幼稚園のママ友をはじめ、気の合う人たちが近くにいるのも居心地の良さをつくっています。だから、今さら他の場所へ行く勇気はないし、ここも、このままの環境であってほしい」(祥子さん)
需要に応えることで、〈マルコ〉としての生業が定まって。
かつて、マクロビオティックの店に勤務しながら、マクロビの勉強もしていた祥子さん。子どもが生まれてからは、その経験と知識がいかんなく発揮されているといいます。
「料理はもともと好きだったんですが、お菓子づくりは面倒くさくて、実はあまりやっていなかったんです。でも、自分の子どもにはやっぱりちゃんとしたものを食べさせたいと思うし、子どもがアレルギーをもっていたから、何を買うにつけ、原材料が気になってしまう。じゃあもう、自分でつくってしまおう、と」(祥子さん)
そうして必要に駆られてつくり始めたお菓子が、やがて周囲の人たちの間で評判に。リクエストに応えるうちに〈マルコ〉がだんだんとかたちづくられていきました。だから「これが仕事になるなんて本当に思っていなかった」と祥子さん。
「アレルギーで困っている人たちも実際にいたりして、需要があると感じられたのが大きかったんだと思います。単にお菓子屋さんがやりたい、ということではなくて、欲しい人に届けられる、というところで」と譲さんは分析します。
必要とされるものに応える、その責任感とやりがいと。店を構えて地に足をつけた〈マルコ〉は、これからまさに、地域に根を張っていこうとしています。
【今回ご紹介した〈焼き菓子malco〉について】
■住所:※2024年3月末に下記住所に移転予定です。
東京都杉並区下井草5-19-19
■電話:080-4677-3010
■営業時間:10:00~16:00 (火曜日・土曜日の営業)※なくなり次第終了
■定休日:日月祝
最新情報は店舗公式Facebookをご覧ください。
https://m.facebook.com/malco.bake/
※2024/2/28時点の情報です。
(photo: Hiromi Kurokawa text: Mick Nomura/photopicnic)