アルカション 保谷
池袋線
保谷駅

「練馬にこの店あり」を理想に。街の菓子屋として貫くパティスリー〈アルカション〉の形。

西武鉄道池袋線「保谷」駅から線路沿いをちょっと歩き、踏切のところで道を曲がると、かわいらしい一軒家が現れます。ブドウの木がつたう入り口を入ると、ここはフランス?と一瞬見まごう、本格的なパティスリー。オーナーシェフの森本慎さんが、いちから立ち上げたお店です。
アルカション 保谷

森本慎 西武線在住歴40年以上

吉祥寺〈レピキュリアン〉、小田原〈ブリアン・アヴニール〉を経て渡仏。2005年〈アルカション〉オープン。

シュークリームはなぜふくらむ?動機は、知らないことへの好奇心から。

アルカション 保谷

パティシエを目指す動機は人によっていろいろあれど、森本さんがお菓子の世界に飛び込んだ理由はちょっぴり変わっていました。

「勉強が嫌いで学生時代はずっと遊んでいました。高校生で進路を決める段になって、大学進学なんてもちろん考えられず、手に職をつけようと思ったんです」

飲食に興味があった森本さんは、料理人と菓子職人、どちらの道へ進むか検討しました。

ショーケースにずらりと並べられた美しく飾られた生菓子に目移りしてしまう。
ショーケースにずらりと並べられた美しく飾られた生菓子に目移りしてしまう。

「当時の素人知識と判断なんですけどね。肉や魚といった料理の場合は、どうやってつくられるかなんとなくイメージできる気がしたんです。対してお菓子は、この食材がどうしてこういう仕上がりになるのか、まったく想像がつかなかった。単純に、シュークリームはなんでふくらむんだろう?とかね。今まで全然気にしてなかったぶん、わからなさすぎたんです」

つまり、森本さんがパティシエを目指したのは、お菓子がとりわけ好きだったからでもなく、業界に憧れがあったわけでもなく、知らないことに対する“純粋な好奇心”で“職種”として選択した結果だったのです。

その土地で変わらず、ずっと愛されている伝統菓子を。

アルカション 保谷

パティシエになったきっかけもさることながら、修業の過程も人とはちょっと違いました。森本さんは製菓学校を卒業後すぐに渡仏したわけではなく、日本で修業を積んでから、つまり手に職をつけてから本場へ向かったのです。

「実は専門学校時代には研修制度があって、フランスのノルマンディに半年ほど留学したんです。でも、言葉もわからなければ現場で働いた経験もなかったため、かなり苦い思いをしてしまって。それで、自分が指示を出せるくらい仕事を覚えてからリベンジしようと決めました」

アルカション 保谷

吉祥寺の〈レピキュリアン〉と小田原の〈ブリアン・アヴニール〉での修業を経て、再びフランスの地を踏んだのは27歳の時。ボルドーを中心に地方をまわり、ひたすら地方菓子を吸収していったといいます。

「パリなどの都会のケーキはあんまり好きじゃなかったんです。新しく生まれたものや流行りのものよりも、何百年も変わらずにその土地で食べられ続けてきたもののほうに琴線が触れて。こういうものをたくさん覚えて日本でつくりたいなって」

パリの最新のお菓子なら東京でも手に入る今にあって、その土地でなければ出会えない伝統菓子に魅力を感じてしまった森本さん。その思いを象徴するようなお菓子が〈アルカション〉にはあります。それは、ボルドーの老舗パティスリー〈マルケ〉の「デュネット」。特許を取得している、フランス国内でも門外不出のスペシャリテです。

日本で〈アルカション〉だけがつくることを許された「デュネット」は、愛らしいオリジナル缶入りも(8ケ入り1,000円)。
日本で〈アルカション〉だけがつくることを許された「デュネット」は、愛らしいオリジナル缶入りも(8ケ入り1,000円)。

「コニャックと松の実とアーモンドを使った、いたってシンプルな構成のお菓子なんですけど、こういった組み合わせは日本人の感覚では発想できない、自分では絶対につくれないと衝撃を受けてしまいました」

修業先を口説き落とした森本さんの情熱によって、「デュネット」は世界でもボルドーの〈マルケ〉と練馬の〈アルカション〉でしか製造販売されていません。

ローカルに根ざす、“練馬の菓子屋”を目指して。

アルカション 保谷

生菓子、焼き菓子、パン、サンドイッチ、ジャム、チョコレートにアイスクリームまで。〈アルカション〉の幅広い商品ラインナップには驚かされます。

「本来は、そこまでやるのがパティスリーの領分なので。いちから手づくりしているから、商売の観点からしたら相当非効率だし、実際、大変なんですけどね。この街では、ロールケーキとかショートケーキとか、老若男女に好まれる“洋菓子屋”のほうが広く求められているのかな、と思うことも正直あります。でも、しょうがない。僕がやりたいことをやらなければ、自分で店をやっている意味がありませんから」

だからこそ、自分で考えてつくったものをお客さまにおいしいと言ってもらえるとやりがいを感じる、と森本さん。

アルカション 保谷

〈アルカション〉は、西東京市の地名を冠した保谷駅が最寄り駅ではありますが、店の所在地は練馬区。そして、練馬駅のそばにも、もう一店舗あります。

「この厨房で自分たちだけでつくることを考えたら、増やせてもあともう一店舗が限度。それが〈アルカション〉の最終形態かなと思っています。もう一店舗はもちろん練馬区内で。僕は生まれも育ちも練馬。実は、妻もそうなんです。修業の時以外には練馬を離れたことがありませんから、ここで生きていくのが僕にとってはごく自然なこと。だからこそ“練馬の菓子屋”になりたいんです」

都会にある最新の店ではなく、地域に根づくローカルな店を目指す森本さん。あくまでも生活と直結した、毎日の暮らしをちょっと豊かにしてくれる本場のパティスリーを知っているからこそ、自らの地元である練馬に暮らす人々のもとでそれを実現したい。生活になくてはならない街の菓子屋が、ここ練馬にありました。

今回ご紹介した〈アルカション〉について

アルカション 保谷

■住所:東京都練馬区南大泉5-34-4
■電話:03-5935-6180
■営業時間:10:30~19:00
■定休日:月曜(祝日の場合は翌火曜日)*不定休あり
■公式サイト:http://arcachon.co.jp/

※2024/02/28時点の情報です。

(photo: Hiromi Kurokawa text: Mick Nomura/photopicnic)

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東伏見稲荷神社は、このあたりで最も大きな神社。京都の伏見稲荷大社の分祀として昭和4年に創建されました。西武鉄道新宿線の上保谷駅はそれを機に東伏見駅という名称に変更され、今に至ります。
東伏見稲荷神社
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威風堂々とした大きな本殿とは対照的な雰囲気を醸しているのが、本殿背後の小ぢんまりとしたお塚。たくさんの鳥居をくぐり、あちこちに鎮座している狛犬ならぬ狛狐たちと目が合うと、なんとなく身が引き締まるよう。
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新東京百景のひとつにも数えられる東伏見稲荷神社を訪れる時は、青梅街道からも見える大きな赤い鳥居を目指して。■住所:東京都西東京市東伏見1-5-38 ■電話:042-461-1125
東伏見稲荷神社
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もともとは旧陸軍士官学校の敷地の一部だったという大泉中央公園は、さまざまな楽しみ方ができる地元住民の憩いの場。ひとりで走りに行ったり、家族で遊びに行ったり、従業員とバーベキューを楽しんだりと、森本さんも大いに活用している様子。
大泉中央公園
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夏には水遊びのできる噴水広場や、ピクニックに最適な広い芝生の陽だまりの広場、子どもたちが遊べる遊具や、陸上競技場やナイターもできる野球場なども完備。バードウォッチングができる野鳥の森もあります。
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西武鉄道池袋線大泉学園駅からバスで20分。東京都と埼玉県の境に位置しています。■住所:練馬区大泉学園町9-4-3(大泉中央公園サービスセンター) ■電話:03-3867-8096
大泉中央公園
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