
おいしいパンとエスプレッソ、ワインが地元にある幸せ。江古田の魅力を底上げする〈パーラー江古田〉の存在感。

原田浩次 西武線在住歴14年
武蔵大学に在学中にひばりヶ丘駅、その数年後に小竹向原駅エリアに住み、店の移転とともに江古田へお引越し。
車でエスプレッソ屋を始めるつもりが……。江古田にパンの聖地が誕生した理由とは?

ショーケースには、小麦やレーズン酵母を使った全粒粉やライ麦のハード系のパン、食パン、バターたっぷりのブリオッシュなど、店内で焼き上げる種類豊富なパンがずらり。その一つひとつが、個性的で存在感たっぷりの〈パーラー江古田〉のパンたち。そのおいしさは都内でも屈指の評判ですが、「うちはパン屋と思われがちですが、スタートはエスプレッソ屋なんです」と原田さん。
ワーキングホリデーでオーストラリアに住んでいた頃、エスプレッソマシンを置いたカフェに出会い、その影響を受けてカフェを開きたいと思ったのが〈パーラー江古田〉の原点だと言います。
「今も僕の中では『エスプレッソを出すお店』というのは変わりません。パンを出すようになったのも、コーヒーのお供に出すサンドイッチの材料として焼き始めたのがきっかけですから。今みたいに、こんなに主力商品になるとは夢にも思っていませんでした」

そんな意外な事実に加え、お店を江古田に構えた経緯にもおもしろいエピソードが。
「その当時、古いフォルクスワーゲンのバスに乗っていて、それでお店をやろう思っていました。家から近いし、武蔵大学出身で馴染みもあったので江古田に場所を探しに来て。物件じゃなくて車が置ける空地を探していたんです。でも同時期に、免許を取り上げられてしまって(笑)。車で店をやるのが断たれ、仕方なく不動産屋に行ったら、ちょうどリーマンショック後で安く物件を借りられたんです」
お客さまと会話しながら「おいしい」を共感し合いたい。

そうして、江古田駅北口に位置する約8坪の小さなテナントを借り、念願のカフェをオープン。武蔵野音大が近くにある立地も追い風になったとか。
「音大の教授や学生さんって、ある程度ヨーロッパを意識している人が多いから、僕らが提供するエスプレッソやパンが受け入れられやすかった。BGMになんとなく雰囲気でオペラを流していたら、たまたまお客さまがオペラ歌手で曲のことやイタリアのことを教えてくれたり。カウンター7席の狭いお店でしたから、お客さまと自然と会話が始まるのが日常でしたね」
原田さんの作るパンが地元でたちまち評判になり、雑誌やメディアに取り上げられることも増え、〈パーラー江古田〉はこの街の顔になるまでに発展。広いカフェスペースと工房を備えた現在の一軒家に移転してからも、お客さまとよく“会話”をする原田さんの接客スタイルは変わりません。

「それは、僕の“おいしい”を伝えたいから。『おいしいよね?』 と共感を得たいから、お客さまとあれこれ話をしながら提案しています」
イートインのメニューにも、パンそれぞれに使用している酵母や味の特徴が詳しく書かれていて読み応えたっぷり。“おいしいがちょっと食べづらい”など正直すぎる解説は、まるで原田さんと話しているような気分になれたりも。
「おいしいパンが食べられるから、江古田に住もう」。そんな存在になれたらうれしい。

原田さんは〈パーラー江古田〉のほかに、小竹向原の保育園に併設されたカフェ〈まちのパーラー〉と、半年前に江古田にオープンした自然派ワインの角打ち兼販売所〈パーラーさか江〉を運営。〈さか江〉ではワインの試飲(有料)をしながら、ワイナリーや作り手さんの話などを聞きつつワインを選ぶことができます。最近はもっぱらこちらにいる時間が多く、ご近所の飲食店の方やワイン好きもふらりと訪れ、江古田の新たなたまり場にさっそくなっている様子。
3・6・9・12月の第2日曜日には、南口にあるベトナム料理店〈MaiMai〉の店主とともに「ろじものや」という食のマルシェを主催しています。
「都心の大きなマルシェまでわざわざ行っている人たちに、地元でそれができるようにしてあげたくて。飲食店もそう。近所にいいお店があれば、みんな仕事帰りにまっすぐ帰ってきて地元で食べたり飲んだりできますよね。そのほうが、ちょっと飲み過ぎても歩いてすぐ帰れていい」

住む人の需要が住む場所で満たされれば、「町も人も豊かになり、フードマイルも減らせる」と原田さん。最後に、原田さんが最近のこの町で起きたうれしかったことを教えてくれました。
「新築マンションの周辺情報に載せてもらうことが増えてきて、それが地味にうれしいです(笑)。スーパーまで徒歩何分、学校まで徒歩何分、〈パーラー江古田〉まで徒歩何分ってインフラのひとつとして紹介されていて。『おいしいパンが食べられるから江古田に住もうか』ってなるのが、僕らにとってすごく大きいし喜ばしい。そんなきっかけになる場所がどんどん増えていくように、同じ熱量を持つ人たちと一緒に沿線を盛り上げていきたいですね」
今回ご紹介した〈パーラー江古田〉について

■住所:東京都練馬区栄町41-7
■電話:03-6324-7127
■営業時間:8:30~18:00
■定休日:火
※2024/02/28時点の情報です。
(photo:Jiro Fujita/photopicnic text:Ayano Sakai)