香川の文化を東京に届けたい。東久留米で和三盆糖の魅力を発信する〈和菓子舗 象東〉へ。
三浦和子 西武線在住歴20年以上
広告会社勤務を経て、2011年に起業。香川の霊峰、象頭山にあやかり、東京支部の気持ちで屋号を〈象東〉に。
四国独自の砂糖、和三盆を知っていますか?
和三盆糖とは、香川県と徳島県だけでつくられている高品質な砂糖のこと。砂糖が高級輸入品だった江戸時代、徳川吉宗の「享保の改革」によって国産化が奨励された際、いち早く名乗りを上げたのが高松藩でした。
「以来、今日にいたるまで当時と同じ製法でつくられています。もちろん手づくりで、工業生産の砂糖とは製法も味わいも全然違います」と、〈和菓子舗 象東〉を営む三浦和子さん。
竹糖という種類のサトウキビの汁を絞って固め(この時点では黒糖)、そこからミネラルを残しながら雑味を取り除いていきます。このとき、“盆の上で三回”研ぐことから“和三盆”と呼ばれるようになったのだとか。
この和三盆、砂糖そのものだけでなく、和三盆でできた干菓子(ひがし)のことを指す場合もあります。〈象東〉では、それを“御陽菓詞(おひがし)”と名づけて製造販売しています。
「関西では「おひがし」という名称でよく知られているんですけど、お茶をされている方は別として、関東では一般的に落雁と区別がつかないという方も多いのではないでしょうか」
確かに見た目は同じ干菓子である落雁によく似ていますが、落雁が米粉や小豆粉などと砂糖をブレンドしたものであるのに対して、“御陽菓詞”は和三盆糖100%。口に含むとほのかにやさしい丸みのある甘さが広がるも、さっと溶けて次の瞬間には残らず消えてしまう儚さ。なんとも気品があります。
香川の“和三盆大使”を買って出て、いざ起業へ。
香川県にルーツをもつ三浦さんにとって、香川は心の故郷。
「生まれ育ちは関西で、香川で暮らしたことは実はないんです。でも、先祖のお墓がありますし、私にとっては特別に思い入れのある土地なんですね」
何度も訪れるうち、和三盆にまつわる世界に魅了され、なかば使命感に駆られるように、このすばらしさを関東にも広めようと決心しました。
まずは干菓子をつくるための工房にする場所を確保する必要がありました。子育て真っ最中だったこともあり、自宅の近く限定で空き物件を探したといいます。
「食品製造の工房として使えそうなところを、不動産屋さんに紹介してもらいました。出してもらった候補の図面を保健所に持っていって、どこなら現実的に工房にできそうか相談したんです」
そこで条件に合ったのが、東久留米駅からすぐの、いま〈象東〉が入っている同じビルの上の階。2011年のことでした。それから数年後、ビルのオーナーの厚意で2階に移動できることになり、そのタイミングで店舗を構える決断をしました。
東久留米を、ますます魅力ある街に。
「以前は田無に住んでいました。田無は新宿から電車で20分、東久留米は池袋から20分と、ターミナル駅からの距離感はだいたい同じ。それなのに、東久留米のほうはものすごくのどかなんですよね。都会から近いのにエアポケットのように取り残されている感じなんですけど、まさにそこに価値を感じています。田園風景が広がり、清流があり、竹林がありと、自然には事欠きません。子育てするにはすごくいいと思います」
この20年ほどで街の様相は大きくは変わっていないけれど、新しいことを始める若い人たちが増えてきているのが心強いと三浦さん。「個人でがんばっているお店仲間とつながって、東久留米を一緒に盛り上げていければと思っています」
〈象東〉のような和三盆専門店は、都内はおろか、全国的に見ても珍しい存在。パリのサロン・ド・ショコラに出展したり、デパートの催事に出展したりもしていますが、東久留米の店舗なら、いつでも貴重な和三盆が手に入ります。「ここを目指して東久留米に来ていただけたら、これほどうれしいことはありません」
ほかの個人店との相乗効果で、東久留米の魅力を底上げしたい。〈象東〉は、そのポテンシャルをもっています。
【今回ご紹介した〈和菓子舗 象東〉について】
■住所:東京都東久留米市本町1-4-29
■電話:042-420-7104
■営業時間:月〜金/10:00〜18:00・土/12:00〜18:00
■定休日:日祝
■公式サイト:https://zoto2011.com
※2024/02/28時点の情報です。
(photo: Jiro Fujita/photopicnic text: Mick Nomura/photopicnic)