コーヒー一杯からはじまるコミュニケーション。人と人が出会うハブになる場所〈MIA MIA〉。
ヴォーン・アリソンさん、理恵さん 西武線歴約2年
コーヒーライター、モデルなど多彩な顔を持つ、オーストラリア出身のヴォーンさんと建築家の理恵さんの“好き”を詰め込んだ念願のカフェを2020年4月オープン。
見知らぬ土地の物件との出会いから、2人のいつかの夢が動き出した。
東長崎には縁もゆかりもなかったヴォーンさんと理恵さんですが、昔からカフェをやりたいと、長年、物件を探していたのだそう。偶然この場所と出会い、いつかの夢が、急に動き出しました。
「私たちコーヒーが大好きなんですよ。いまだに毎日コーヒーを買いに行ってからここに来てるくらい(笑)。ヴォーンが12年ほどコーヒー屋さんを紹介する仕事をしているんですが、いつかコーヒー屋さんをやりたいねと言っていて。でも、やるんだったら“one of coffee shop”になってほかのお店と競争関係になるんじゃなくて、今まで紹介してきた人たちを守りながらやりたいと思っていて。ここだったらいろいろなコーヒー屋さんを呼んでイベントもできそうだなという絵が見えてきたんです」(理恵さん)
「街をおもしろくする人に入ってほしい」と考えていた大家さんとの面接で、2人は「地域の人の居場所でありながら、外からも人を呼ぶような場所にしたい」とプレゼンし、見事合格。
「〈MIA MIA〉は、オーストラリアの先住民の言葉なんです。彼らは移動しながらその先々でその場にあったものを使って小屋を作るんですが、その最初の小屋のことを“マイア マイア”と言うらしくて。この場所も、ここにある材料を使って、みんなのためのシェルターになったらいいなって」(理恵さん)
地元の80代の大工さんと偶然出会い、施工してもらうことができました。昔の建物の面影を至るところに残しながらリノベーションし、居心地のいい場所に生まれ変わったのです。
街におけるカフェの存在とは。自然とコミュニケーションが生まれる空間に。
「メルボルンの人って、朝昼夜、コーヒーを飲むんですよ。だからみんなコーヒー屋さんにすごく行くので、バリスタがいろいろな情報を知っていて。このエリアでおいしいお店はどことか、あのおじいさんが来てないけど大丈夫かなとか、なんでも知っている。地域のハブみたいな、インフォメーションセンターみたいな存在で。私とヴォーンがいつも旅行する時は、まずそのエリアのいいコーヒー屋さんに『どこに行ったらいい?』って聞きに行く。そんなふうに、街と人をつなげたいし、日本にそういう場所がないなら私たちがやればいいよねと。そこに行けば自然とコミュニケーションが生まれるし、何かが起こるような空間にしたいんです」
2人が目指すカフェのあり方は、まさにそんな街のハブになる、コミュニケーションが生まれる場所でした。コーヒーがつなぐ、人と街。そこから始まる新たな関係こそ、2人が最も大切にしているものなのです。
「ここには誰かに会いたい時に来てもらえたらなって。日本ってすごく災害も多い国で、それなのに周りに知り合いがいなくてと心細く思う瞬間も多いと思うんです。でも地域に知ってる人の顔ができてくれば、少しは安心して暮らせるようになると思っていて。人と会いたい時、誰かと話がしたい時の居場所になったらいいなと。小さいコーヒー屋だけど、街のインフラみたいな場所なんじゃないかな」(理恵さん)
ある瞬間、「ちょっと見ててね。私たちがやろうとしてることがわかると思う」とヴォーンさんが小さな声でつぶやきました。店の外を掃除していたスタッフが、通りがかった年配の女性とあいさつを交わし、自然と立ち話がはじまりました。それが普段の風景なのだそう。ここをよく通るというその女性は、もちろんヴォーンさん、理恵さんとも顔見知り。この〈MIA MIA〉の前を通るたび、こうして声をかけるのだとか。
〈MIA MIA〉のドアや窓は、いつも大きく開け放たれ、そこからスタッフは顔を出し、お客さまだけでなく、道行く人にも声をかけます。この場所ができてからというもの、そうやってこの街の住人の方ともコミュニケーションを大切にしてきました。
「僕たちは、街を明るくするためにあいさつする。簡単に聞こえるかもしれないけれど、あいさつはとても大事。駅までの道も掃除する。そこまでしなくても、といわれるけれど、私たちは普通だと思ってる。街がきれいなほうがいいから」(ヴォーンさん)
「私たちはこのお店をコミュニティの一部としてやっているので、このエリア全体を盛り上げたいんです。掃除するのも同じことで、街を住みやすくすることで、みんなが気持ちよく住めれば新しい人も来てくれるし、商店街も盛り上がると思っています」(理恵さん)
ここに来て、少しだけハッピーに、少しだけ元気になってほしい。
〈MIA MIA〉のウェブサイトには「HELLO!! HIGASHINAGASAKI」というコンテンツがあり、東長崎エリアにある2人のお気に入りのお店を紹介しています。
「いい場所を見つけたら友だちに教えるでしょう? 雑誌とかの文化ももちろん大好きだけど、やっぱり口コミが一番信頼できる。私たちがお店を紹介するのもそういう気持ちから。純粋にいいものだから教えたくなる」(ヴォーンさん)
「ここを借りる前に街歩きをしたんですが、その時に見つけたおもしろいお店を紹介しています。ここのエリアって、実はもともと“池袋モンパルナス”って呼ばれていたそうなんです。長崎アトリエ村っていうアーティストたちが住んでいたエリアがあったり、トキワ荘も近いし、いまもジャズミュージシャンの人たちが住んでいるエリアがあったりだとか。日芸や武蔵野音大が近いこともあって、若いアーティストがここに住んで、自分たちの作品を作ってきた土壌があって。だからきっと私たちがこの街でチャレンジすることも受け止めてくれるんじゃないかなって」(理恵さん)
「やっぱりオフラインがいいね」とヴォーンさん。コロナ禍で思うようになかなか移動できず、会えないもどかしい時間が続いているなかでも、〈MIA MIA〉で提供しているのは、ここでしか飲めないコーヒーや、ここでしか味わえない体験や、ここだけにしかない人との出会いなのでしょう。
「ここに来て、ちょっとハッピーになって帰ってくれればいいかなって。なんでもいいから。そういう瞬間をちょっとだけ。誰が来ても、ちょっと元気になったねって」(ヴォーンさん)
「私たちはそのきっかけを作っているだけで、お客さまも一緒にこの場所を作っているんですよ」という理恵さんの言葉を聞いて、ハッとしました。空間は人がいて作られるものですが、ヴォーンさん、理恵さんをはじめ、スタッフの方だけでなく、コーヒーを楽しむ自分自身も、その空間を形づくる登場人物のひとりなのだということに気がついたのでした。おいしいコーヒーと、この場所を介して出会う人とのつながりを求めて、誰もがきっと何度も足を運びたくなるはずです。
今回ご紹介した〈MIA MIA〉について
■住所:東京都豊島区長崎4-10-1
■電話:なし
■営業時間:月・木8:00~20:00、水6:55〜ラジオ体操!!、金・土・日8:00~22:00
■定休日:火(祝日の場合は22:00まで営業)
■公式サイト:https://www.mia-mia.tokyo/
※2024/02/28時点の情報です
(photo:Natsumi Kakuto text:Kayo Yabushita)